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■亜米利加よもやま通信 ~コロラドロッキーの山裾の町から
 

第795回:少子化と超老人の時代 その1

更新日2023/03/23


日本の少子化問題は世界の注目を集めています。人口のピラピッドが頭デッカチになり、しかも65歳以上の年寄りが増え、子供が少なく、チョット指で押せば簡単に倒れてしまいそうな構造になっています。そのように国の人口全体が老齢化し、子供が極端に少なくなる傾向に、日本がどのように対処するのか注目されており、雑誌や新聞、テレビなどのマスメディアに社会学者がゴモットモな意見を展開するようになりました。 

素晴らしい地球の自然や野生の動物の生態写真を満載している私たちお気に入りの月刊誌『ナショナル・ジオグラフィック』(National Geographic/202302月号)でさえ、日本の老齢化現象を面白い写真入りで報道しています。

先進国と言って良いのか、経済的に豊かな、平均収入が高い国と呼んだ方が良いのか、ヨーロッパ、アメリカ、カナダ、それに日本と韓国に、少子化、人口の老齢化が進んでいます。そのトップランナーが日本というわけです。 

世界の注目をどう集めようが、一番困っているのは日本そのものであることは確かで、なんとか“産めよ、増えよ、地に満ちよ”を実現しようと社会保障制度を整備しようとしているようです。

岸田さんは、出産時に50万円を支給する政策を打ち出しました。物価の上昇に対し、加えて、子供のいる低所得者に一律3万円、二人いれば5万円を支給する方針です。表面だって、モノを言うのはお金、経済だ、ということは分かるのですが、その他にもたくさんの要因があると思います。

また、旦那さんの産休を30年度までに85%実施する、できる方針を打ち出しましたが、現在、制度として旦那さんの産休が法的に認められていても、実際に産休を取る人は14%しかいません。これを、一気に85%に持っていくには、罰則を含めた法的規制のほか、会社、企業の体質と社会意識を同時に変えていかなくてはならないでしょうね。   

この出産一時金、アメリカなどから見れば、産児制限があまり得意でないメキシコ系、中南米系のカトリック教徒、アラ、また出来ちゃったが多いゲットーの黒人を壮大に増やすことに繋がるので、保守的な政党の大反対が予測され、取り得ない政策です。 

少子化と老齢化は一体となった問題のように思えます。と、子供のいない私が偉そうに言えることではないのですが、私もイザとなったらアメリカではなく、日本の老人施設の方を選ぶでしょう。根本的に日本とアメリカの違いは、家族主義と個人主義の違いにあるように見えます。それにお金をどれだけ持っているかの差が、アメリカの場合、老後の過ごし方に露骨に表われます。   

今、父がいる老人ホームはとても住み良いところで、大きな中央ビルディングを囲むように二軒長屋的なアパート群が取り巻いています。それが25軒ほどあり、他に中央ビル内にも豪華なマンション風のアパートがあります。毎回、食事の度に、大ホール食堂まで歩くのが大変な老人(満足に歩けない老人が多いのです)がそこに入っています。60戸はあるでしょうか。

都会の周囲地域には、このような老人施設が年寄り世界に対応するかのように、それこそ雨後の筍の如く続々と建てられています。父のいるヴィラと呼んでいる二軒長屋は車2台分のガレージ(アメリカ人から車を取り上げることなど不可能なのです)、寝室2室、シャワートイレが2室、それ大きな台所と広々とした食堂とリヴィングルームがあります。

食事は本部のあるビルディングの食堂で三度摂ります。33度、立派なメニューからお好みの料理を選び、ウエイター、ウエイトレスに注文する方式です。チョットした高級レストランみたいなのです。他に、リクレーションルーム、談話室などがあり、そこには24時間、コーヒー、紅茶、ソフトドリンク、スナック、果物などがふんだんに用意されています。 

歳を重ね、記憶が怪しくなってきたり、一人で食べることができなくなった老人は、隣接した介護施設に移り、さらに重傷者は奇しくもメモリーケア・ユニットに移るようになっています。

外からの視察、見学に来た人は、誰しも、“なんと、至れり尽せりの老人施設だろう”という印象を持つに違いありません。ですが、このような施設に入るには高いハードルがあるのです。

父は毎月、4,500ドル(60万円相当かしら)を支払っています。もちろん、その他に車の維持費、車の保険、健康保険、薬代などなど、毎月1,000ドル(13万円相当)くらいは使っています。父の三つ年金を合計しても足りず、前の家を売った預金から、毎月引き出して、補充しています。そうは言っても、それができるだけ幸運な部類なのでしょう。ですから、この施設に入っている老人は、とても豊かな人ばかりです。  

もっと高級な老人ホーム、低所得者向きの老人ホームもたくさんありますが、基本的には“独立した生活”(Independent Living)を謳っており、一旦、表のドアをロックしたら、家屋内の生活には全く関与しない、タッチしない方針を貫いています。それが個人の生活、生き方、命を守ることだと頭から信じているのです。そんな個人の在り方を守り続けるには、広いスペースとお金がかかっても当たり前という考え方です。  

しかし、どのように立派な施設に住んでいようとも、老人は基本的に暇であると同時にとても孤独なのです。

母を亡くしてから、父はアレっ、こんなに早く?と呆れるくらい速やかに恋人ができました。同じ老人ホームに住む92歳になるお婆ちゃんで、1日の半分以上、4分の3の時間を一緒に過ごしています。まるで夫婦以上のくっつきようなのです。そんな状態ですから、二人一緒に暮らした方が、経済的ではないか…と思うのですが、老齢の恋人同士には彼らの事情があるのでしょね。

父は朝、時間をかけてシャワーを浴び、丁寧に髭を剃り、ボトル半分くらいのアフターシェーブ・ローションを振り撒き、いつもこ綺麗なシャツを着込み、いそいそと恋人と本館のダイニングルームでの朝食に出かけて行きます。そして、彼女のユニットにそのまま居続け、昼、夜の食事を共にし、自分のアパートに帰ってくるのは夜の9時~10時という毎日です。

私たち兄弟、姉妹も半ば呆れながらも、父が幸せならそれで良いか…と、認めるというか諦めの心境になってきました。

 

 

第796回:少子化と超老人の時代 その2

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Grace Joy
(グレース・ジョイ)
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中西部の田舎で生まれ育ったせいでょうか、今でも波打つ小麦畑や地平線まで広がる牧草畑を見ると鳥肌が立つほど感動します。

現在、コロラド州の田舎町の大学で言語学を教えています。専門の言語学の課程で敬語、擬音語を通じて日本語の面白さを知りました。

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