第485回:過労死~あまりに日本的な死
よく働くことを美徳とする考えは、西欧、特にラテンの国々にありません、とまでは言い切ることはできないにしろ、会社やお役所のために自分を犠牲にするのはバカ、自己を持たない個性のない人間とみなされます。
逆に、本人が好きなこと、やりたいことに命を賭けるようにして取り組む人は、"あいつは、あの人はキチガイだ!"と言われながらも尊敬を集めます。西欧、ラテンの国で会社のために人生を棒に振るような生き方をする人はいないか、いたとしても非常に少ないでしょう。
ウチのダンナさんの友達や甥っ子さんたちもホントによく働くな~、といつも感心させられます。当然の権利である休暇やバカンスをまとめて取らず、それどころか休みを返上して会社勤めをしています。大きな顔をして休めるのは、親族に不幸があった時か、結婚式の時だけで、あとはゴールデンウィークとかお正月、お盆休み、祭日だけのようなのです。ラテンの国の人から見れば、"何のためにそんなに働くの?"ということになるでしょう。
高橋マツリさんは東京大学を出て、エリート社員として電通に勤めていました。2015年4月に入社してダイレクトマーケティングビジネス局に配属され、主にインターネットを操る仕事をしていました。ところが、9月までの研修期間を終えた途端に、9月までの残業が40時間だったのが、10月から105時間にもなってしまうほど、シゴトに追いまくられるようになってしまったのです。
105時間と言えば週5日として1日平均10時間以上の残業という考えられない拘束時間です。電通の方針としては70時間以上は残業させない方針で、実際に100時間以上余分に働いていても、上役がお前はただ無駄に時間を費やしているだけだと68-69時間に削って記録していたと言います。
新入社員として華の電通に採用されてから8ヶ月経った、それもクリスマスの日に高橋さんは社宅から投身自殺をしたのです。
政府が重い腰をあげて過労死の実態を調査し、対策を検討し始め、労災保険適応を認めるようになってからしか統計はありません。もちろん、そんな統計に載らない例の方がはるかに多いことでしょう。それでも2002年に過労死と認められ、労災保険の適応を受けた人は160人いましたが、高橋さんが自殺した昨年、2015年には96人に減っています。しかし、自殺未遂に終わった人がほかに93人もいます。その人たちは死にはしなかったけど、激しいストレスで精神疾患を患っていることでしょう。
日本に行く度に不思議に思っていたのですが、あのバーや飲み屋さん、路上の赤提灯、果てはキャバレー、クラブに到るまでの圧倒的な数の多さです。それだけお客さんがチャントおるということでしょうか。最近、女性のお客さん、お酒飲みも増えたとは言え、圧倒的にダークスーツのサラリーマンが多く、海外から来た人が見るとチョット異様に見える風景です。
早く家に帰って奥さんや子供たちと時間を過ごさないのかしら…と余計な心配をしたくなります。一種独特のサラリーマン文化があるようなのです。あまり、積極的に認めたくはないのですが、仕事の帰りに一杯やるのがどうもストレス解消に大いに役立っているのではないかと思えます。呑めば翌日の朝がキツイことになるのは分かっていても、仕事の帰りに同僚と呑むのは、効果のある精神療法になっているフシが大いにあります。
若い高橋さんのような女性は、仕事の帰りに同僚や先輩と一杯呑むこともせず、仕事の重圧ばかりが溜まっていったのでしょう。
『全国過労死を考える会』では、"統計で表せない思い"をしている人たちに焦点を合わせ、過労死をなくす運動を展開しています。
どんな、仕事でもストレスは必ずあります。でも、睡眠時間まで永続的に削らなければならない労働条件では、適切な判断もできなくなり、疲労が過労になり、とても危険で不健全な状態になりやすいでしょう。
ギリシャ、イタリア、スペインの人たちを、"あいつらは怠け者だ"と決めつける前に、彼らの言うように"バカンスも取らずに働くのはバカで不健康なことだ"という態度を見習ってみてはどうでしょうか。
第486回:ロッカールーム(更衣室)での雑談が・・・
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