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■亜米利加よもやま通信 ~コロラドロッキーの山裾の町から

第544回:他人の目、他人の懐

更新日2018/01/11




日本のニュースを覗くため、チョイチョイ、インターネットでチェックしています。アメリカ、イギリス、スペインのネット新聞も覗きますが、日本のニュースでよく取り上げられる、他の国の人が自国(この場合は日本ですが…)をどう思っているか、どのように評価しているかの記事が、他の国の新聞に比べ、日本のマスコミに異常に多いことに驚かされます。

曰く、日本の製品、車、カメラ、電気製品がどこそこの国で評判だとか、イタリアやギリシャで日本人旅行客のマナーが良いとか、主に西欧の社会で日本がどう思われているかをニュースとして取り上げているのです。

そこへ、最近増えてきたのは、中国人が日本人、日本の製品、日本人のマナーをどう見ているかという記事です。日本を訪れた中国人観光客は、日本の機能的なシステム、時間厳守(主に汽車の発着時間のようですが)、日本人のマナーのよさ、礼儀正しさに感銘を受けた式の記事が数多く目に付くようになってきました。

確かに、“人の振り見て我が振り直せ”(そんな格言がありましたよね)というのは、自己を律する励みになるでしょう。子供を叱る時にも、「他の人が見てますよ、恥ずかしいことしないで…」と叱る親に育てられれば、他人が自分をどう見ているかを強く意識する大人になるのかもしれません。

西欧の人たち、それに雑多な民族の入り混じった中国では、はるかに個人主義が良くも悪くも育ちすぎ、他の人がどう思おうが、オレはオレ、私は私という頑なな態度が身に付いてしまうようです。彼らにしても外の評判を気にしないことはないのでしょうけど、スペインやドイツで外国人が彼らを、彼らの国をどう思っているかなど、まず新聞、マスコミに取り上げられることはありません。これは何も彼らが自信を持っているからではなく、自分のことは自分で決め、自分の国に住む我々のことを他の国の人がとやかく言う筋合いのものではない…というエゴの表れなのですが…。

ウチの仙人が若かりし頃、まだ日本語が達者な外国人に希少価値があったのですが、フランソワーズ・モレシャンというフランス人が、「フランスでは、パリでは…云々」と、何かにつけコメントし、マスコミを賑わせていたと入れ知恵してくれました。もちろん、その当時から、フランス語の堪能な日本人、文学者、教授だけでなく、一般人もたくさんいたはずですが、フランス語訛りの日本語で一席ブツのが受け、また聞く方もナルホドと感心したのでしょうね。

ハーバード大学のケネス・ロゴス先生が、日本の1万円札、5千円札を廃止すべきだという、日本人の日常生活を無視する論文を発表しました。これからのキャッシュレス社会に対応するため、ということは、政府がお金の動きを素早く、確実に掴むために、現金経済から、キャッシュレス、言ってみれば、カードと電子マネー、電信為替に移行すべきで、それはマネーロンダリングを防ぐことにもなる…と言うのです。国際経済のことはよく分かりませんが、巨視的に観ればそれなりの理由がありそうです。

ですが、通貨というのはその国で暮らしている人が便利で使い良いようにあるべきもので、国際間で大きな取引をする会社やドラッグディーラーのためにあるわけではないのです。俄か知識で集めたところ、インドでは1,000ルピー札、500ルピー札を2016年に廃止しています。EUでも500ユーロ札を止めています。今では200ユーロ札(2万4、5千円相当でしょうか)が最高額紙幣になっています。

アメリカでは100ドルが最高ですが、これがまた使い道がなく、店に張り紙がしてあり、50ドル札以上の高額紙幣は受け付けません…とか書いてあるのです。国が流通させている貨幣を受け取らないのは法律違反だと思うのですが、クレジットカード社会のアメリカでは20ドル以下の紙幣だけが主に流通しているといってよいでしょう。

中国で電子マネーが非常に発達し、現金をまったく受け付けないところがあるといいますが、これは都会に限ったことのようで、超のつくド田舎ではやっと貨幣経済が広がってきた状態で、地域、ライフスタイルで大きな格差があるようです。

ヨーロッパでユーロという通貨を採用したとき、私たち旅行者は大いに喜んだものです。国境を越えるたびに違う通貨に両替し、その通貨をきれいに使い切るのは不可能ですから、回った国の数だけ使い道のない小額紙幣やコインがワンサと溜まり、そのまま机の引き出しの片隅に転がることになったものですが、ユーロになり、とても旅がしやすくなったのは事実です。

しかし、ユーロを採用した国は何も旅行者のために伝統ある自国の通貨をユーロに切り替えたのではありません。極言すれば、その国に住む人にとって便利だから、別々の通貨を使うより益するところが多いからです。

日本で1万円札、5千円札を流通させ、500円をワンコインと呼び、活躍させるのはそこで暮らしている人たち、日本人にとって便利だからです。なにも国際経済の動向でキャシュレス社会に対抗するためではありません。1万円札、5千円札を廃止するかどうかは、あくまでそれを日常的に使っている人の問題だと思うのです。どこか外国の偉い経済学者や投資会社の人が口を出す問題ではないのです。「お前ら、他人のことに口出しするな、黙っとれ!」と言う日本の経済評論家はいないのかしら。

それに、ギャング映画でトランクやスーツケースに詰まった高額紙幣を、「ワー、凄い!」と観る感動?は電子マネー、キャシュレスでメモリースティックをいくら大写しにしても、全く伝わってきませんよねぇ。

-…つづく

  

 

第545回: 引退生活の理想郷と山小屋暮らし

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Grace Joy
(グレース・ジョイ)
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中西部の田舎で生まれ育ったせいでょうか、今でも波打つ小麦畑や地平線まで広がる牧草畑を見ると鳥肌が立つほど感動します。

現在、コロラド州の田舎町の大学で言語学を教えています。専門の言語学の課程で敬語、擬音語を通じて日本語の面白さを知りました。

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