第727回:日本化?するアメリカの若者たち
私が大阪の吹田市に住み、英語学校の教師をしていたことは、もう何度か書きました。その時、英語のクラスが終わってから、よくスナックや喫茶店などに生徒さんと行き、ダベッたものです。彼ら、彼女らの英会話の練習になるし、私にとっても、生きた日本語を学ぶチャンスでした。英会話、英語教室に来る生徒さんの大半は、お勤めが終わってから来るサラリーマン、オフィスレディーで、それに何人かの学生さん、そして少数の主婦でした。授業は6時、7時、8時のクラス別でした。授業が終わるのが9時でしたから、それからどこかに流れることになります。
私の人生であれほどモテたことはありません。マア~、私も22歳、今のように汚れたような灰色、シラガの髪ではなく、金髪を長く伸ばしていましたからね…。打ち明けてしまえば、三人もの男性から求婚されているのですよ。珍しモノ好きな人はいるものです。私は珍種、パンダ扱いだったのでしょうね。
その中で、エリート商社マン、きっと偉い大学を出て、良い給料を貰っているらしき男性に求婚されたのです。それも全く唐突に「僕と結婚してくれませんか?」とやられたのには本当にビックリしました。二人だけでデートを繰り返し、様々なオハナシをし、せめて手を握り、キスぐらいはしてからプロポーズに至るのが正統的なプロセスだと思っていましたから、グループでワイワイやっている生徒さんから、急にそんなこと言われても……“藪から棒”とはこのことですね。
その頃、まだ携帯電話などありませんでしたので、二次会に流れる前に、彼、チョット家に遅くなると電話してくると言い残して、その喫茶店のレジ近くにある、ピンク電話に立ったのです。これにも驚きました。彼は30歳前後だったと思うのですが、「お父ちゃん、お母ちゃんに今日、遅くなるよ…」と、一々電話する大の大人がいるのか、それにしても30歳近くなって、まだ両親と一緒に住んでいることに呆れ果ててしまいました。そんな男性はハナからボツです。
ところが、親と一緒に住んでいる一人前の男性がとても多いことに気が付きました。そして、さらに驚いたことは、結婚後もダンナさんの両親と一緒に住み、お嫁さんは彼氏と両親に仕えることが期待されているというのです。日本の住宅事情もあるでしょう。私の時代、などと言うとなんかドエラク古臭く聞こえますが、アメリカでは大学に行き始めると同時に家を出るのが当たり前で、たとえ同じ町に両親が住んでいたとしても、別に部屋を借り、独立した生活をしたものです。それがたとえスチューデントゲットーのような、地下のアパートでも、親元を離れて一人で暮らすのは社会人になる第一歩でした。
高校を卒業し、ヤッホーとばかり家を飛び出し、自分の生活をする、それがたとえ非常に貧しくても、アルバイトと学生ローンでなんとかやっていく喜びがすべてを上回っていました。それだからといって、親子の愛情が薄いとか、ないわけではありません。逆に、個々が独立していないところには、健全な愛情が育たないと信じています。
確固とした独立心を持っていない日本の男たち…と、日本男児を観てしまいがちだったのですが、そんな男性と結婚なんかあり得ないと思っていたのが、元日本人らしき今のダンナさんとスペインで知り合い、結婚し、40年になるのですから、人生何がどうなるか分からないもんです。
いつまで経っても、お父ちゃん、お母ちゃんと一緒に暮らす若者が世界中で増えてきました。50年前の日本の現象が西欧で当たり前になってきたようなのです。アメリカも例外でなく、18歳から29歳までの青年男女の52%は両親と同居しています。
日本では男性の43.5%、女性の51.6%が親と同居しているとありますから、アメリカが日本を追い抜いてしまったのです。私が50年前の大阪で出会った親と同居している人種が、アメリカに蔓延しているのです。
社会学者は経済的な面からばかり、この現象を分析し、郊外の家のサイズが50~60年前に比べ倍近く大きくなり、スペースや空き部屋がある、また不動産や貸家、賃貸アパートの値段が高くなり、学生や就職したばかりの若者に手が出ない、携帯電話にファミリープランがあり、家族の一員として利用できる、車の保険も家と車を一緒にした料金で安上がりになる、また健康保険も親の保護下にいると親の保険にそのまま入ることができる、加えて光熱費を払わなくてよい…などなど、親に寄生する条件が整っているのです。
早く言えば、親の方にそれだけのゆとりがあり、子離れができず、同居を許し、子供に心理的に頼るところがあるのでしょう。親の方にも大いに責任がありそうです。少子化で同居をする大人になった子供を受け入れるのが当たり前になってきたのかもしれません。これが5~8人も子供がいたら、親はとても全員に同居を許すことなどできないでしょうね。
私は若者の寄生生活は経済的な面だけでは捉えきれないと思っています。経済的に独立していない人間に、精神的独立など育つはずがないのです。親元で安穏と暮らしている若者はいつまでたっても大人になれないと思うのです。
ジョージア大学のリチャード・スレッチャー(Richard Slatcher)教授は、「そのような成人した若者が、親と同居するのはモルヒネの効果だ」とまで言っています。全くその通りだと思います。同居は寄生する子にも、子離れできない親にも、麻薬、モルヒネ的な一時的効果しかないと思います。
全面的に親に依存しており、たとえ自分で働いて得たお金があったとしても、すべて自分のためだけに使っている例が大半だそうですから、寄生生活は天国に限りなく近い暮らしぶりなのです。
スペインに住んでいた時、ラテン系の人たちの大家族主義は、あれはあれでお年寄りにも、孫にも良いものだと、全くの外目ですが、思っていました。イタリアには“バンボチョオーニ(Bammboccioni)”と大人になってもまだ子供のように親と暮らしているヤカラを呼ぶ専門の呼び方があるそうで、同居率も群を抜いて高く、64%になります。ヨーロッパの平均は30.5%で、一番低いのはデンマークの19.7%との報告があります。
どうにも、いつまでも親と暮らしているダラシナイのない日本男児が多いと思っていましたが、日本化現象と呼んでいいのでしょうか、親に寄生するのは、日本だけでなく、世界的傾向になってきたようなのです。
いつまで経っても寄生していては、ヤドヌシの方が枯れてしまうというのが寄生動植物界のルールだそうですから、寄生虫は心して共生共存の生活ができるよう、心掛けなければならないのが生物界の原則ですよ。
-…つづく
第728回:新型コロナの社会的副作用
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