第728回:新型コロナの社会的副作用
中国で発生した新型コロナが全世界を恐怖に陥れてから、1年8ヵ月も経ってしまいました。これほど、世界全体に大きな影響を及ぼしたパンデミックは中世ヨーロッパの黒死病以来なのではないかと思います。
人間は社交的な動物、社会的な動物ですから、長い期間孤立して生活するのは不自然なことです。もっとも、孤独というのか、あまり他の人を必要としないで生きていられるウチのダンナさんのような人もマレにはいるでしょうけど、全般的に言って、週に何度かは家族、友達、職場の仲間と集い、ワイワイやるのが健康的な社会生活、また精神を健全に保つために必要なことだと思われます。
新型コロナが蔓延し始めて、通勤せずに自宅でインターネット、電話で仕事を済ませることができる人が相当数に及びました。自宅勤務が始まった当初は、通勤に使う時間がセーブできるので大歓迎だった人が多かったようです。しかし、それも最初の2、3ヶ月のことで、自宅勤務となると24時間、同居者、夫、妻、子供たちと顔を付き合わせることになり、次第にウットウシクなり、家族関係がギクシャクすることが多くなり始めました。家族から離れた職場に行くというだけで、心理的に局面を変え、人間関係をスムーズに保つことができるのではないかと…と言われています。
子供たちも学校に行けず、インターネット授業が多くなり、友達と騒ぎまくることができなくなり、ノイローゼになる子が著しく増えたと言われています。極端な例ですが、18歳未満の自殺が急激に増えたのです。多くの学区、州では、専門の青少年自殺防止ホットラインを設けて対応していますが、コロナ以降の未成年自殺は治まりません。
専門医は極々当たり前のこと、家族内でのコミュニケーションを豊かにし、一緒に食事を摂り、色々なゲーム、ジグソーパズルなどを親子一緒に楽しむ時間を多くすることを薦めています。そして、自殺の兆候が少しでも見えたら、即座にホットラインに電話し、専門医に相談するようにと言っています。しかし、そんなことは誰でも知っているし、いつもながら専門家というのは、いつも教条的な、至極当然のことしか言えないのかと、呆れ果ててしまいます。お父さん、お母さんと夕食後にゲームをするような子供は自殺なんかしないのです。親なんか相手にせず、部屋に閉じ篭ってしまう子供をどうするかが問題なのです。
新型コロナが蔓延するのに伴なって急上昇しているのが、銃火器、ライフル、ピストルによる殺人、傷害事件です。FBI統計によると、統計を取り始めた第二次大戦以降、最高になったとあります。プリンストン大学の社会学者パトリック・シャーキー(Patrick Sharkey)教授は、銃器による殺害事件はコロナ以前、ほんの2年前より25~30%も増えている、傷害だけなら倍近くになっていると言っています。
鶏が先か卵が先か?のように銃器の売り上げも異常に伸びています。それは、アメリカ人独特と言ってよいでしょうか。自分自身や自分の家族を街に溢れてきた犯罪から守るために、自宅にピストル、ライフル、ショットガン、大量の弾薬を蓄え、侵入者に備えるようになったからだと言われています。早く言えば、警察に即、通報し、お巡りさんが駆けつける以前に、自分で悪者を殺してしまえ…という殺伐としたアメリカ的思考があるように思います。
警察官による黒人殺害が相次ぎ、とりわけ黒人が官憲を信用しなくなり、自分を守るために銃を購入する現象も追い討ちをかけたでしょう。ピストルなどはスポーツ用品店や大型スーパーで簡単に、しかも安く買えます。しかし、銃火器、弾薬を仕舞っておく大型の金庫のような安全ガンケースは非常に重く、場所を取るだけでなく、ライフルよりはるかに値が張るのです。都会の住宅ではそんな安全ガンケースを置くスペースなどないでしょう。
侵入者から自らを守るために発砲した事件は極端に少なく、ほとんどゼロに近いのです。チマタに溢れた銃で殺傷事件を起こすのは、すぐにキレル若者が、親元にある銃を持ち出し、無差別に撃ち出したり、我慢ということを知らない人が、嫌いな同僚や上司を撃ち殺すことが圧倒的に多いのです。また、家庭内での暴発事故も多く、先週、3歳になるわが子を撃ってしまった事件すら発生しています。
私たちが住んでいる台地は、基本的に牧場だったところで、そこに町の騒音と雑踏から逃れて、住居を構えた都会人が入り込んだような地域です。牧場主や牧童たちはまず100%銃を持っています。これは夜に進入し、鶏を食べてしまうコヨーテ、マウンテンライオン、熊を撃退するためですから、必要に迫られて、銃を身近に置いていると言っていいでしょう。
そして狩猟のためです。我々のように田舎の空気にアテラレタ町の人たちも、狩猟のためでしょうか、まず皆さん鉄砲を持っています。狩猟シーズンになるとパンパンと銃声が響き渡ります。ですが、ここでは銃器による傷害事件、誤射事件などは、まず起こりません。銃による殺傷事件は圧倒的に都会のことなのです。
2020年の新型コロナ以前と2021年の新型コロナ以降の銃火器殺傷事件を比較すると、カリフォルニア州のサンホセでは179%を筆頭に、フロリダ州マイアミで168%、ニューメキシコ州のアルバカーキーでは133%、アリゾナ州のメッサでは140%と1年で急上昇しています。その他の都会、ラスベガス、サンフランシスコ、コロンブス、アトランタ、エルパソ、サンディエゴ、オースティン、オクラホマシティーと人口20~30万人以上を抱える街では、例外なく増加しています。銃火器による殺傷事件は、アメリカの都会の特徴になってしまったかのようなのです。
どうすれば都会の銃火器殺傷事件を抑えることができるのか、これぞという名案は見当たりません。不法な銃保持を取り締まると言っても、アメリカ全人口の3倍以上の銃がチマタに溢れている状態では絶望的な状況です。それに、今まで警察権を強化して犯罪を押さえ込むことに成功した都市はありません。社会心理学者は、新型コロナで閉じ籠りがちな子供のいる家庭をソーシャルワーカーが一軒一軒訪れ、インターネット授業を補佐し、子供だけでなく、家庭とのコミュニケーションを図るだけが、青少年がドラッグに走ったり、すぐにキレル心理状態を抑えることができるのでは…と至極もっともなことを言っています。
でもそれには、社会心理、加えて児童心理のトレーニングを受けたソーシャルワーカーが何十万人も必要になるというを現実があります。加えて、都会のゲットーを自分の身の危険を侵して家庭を回れる人は多くないでしょう。
それにしても不思議なのは、もう誰も銃規制のことを言い出さないことです。アメリカで銃を規制するのは赤ちゃんからミルクを取り上げるようなもので、まず不可能なことだと諦めているとしか思えません。きっと、アメリカのマッチョマンは、お母さんと添い寝し、オッパイをさぐるように、鉄砲と一緒に寝ているのでしょうね。
-…つづく
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