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■亜米利加よもやま通信 ~コロラドロッキーの山裾の町から
 

第873回:外見はやはり大切なのです…

更新日2024/10/31


2頭のパンダが中国からアメリカの首都ワシントンの動物園にやって来ました。絶滅の危機状態のカテゴリーから、もう絶滅はしないカテゴリーに格が上がり、中国が外交使節として?贈ってくれたのです。

最近、とみに険悪な米中関係にとって、パンダは最高の外交官だともっぱらの評判です。もちろん、それを一眼観ようと大勢の人が詰めかけています。それにしても、パンダはなんと愛らしい動物なんでしょう。様相だけでなく、動作もいちいち可愛らしく、愛嬌があり、ワーッ抱いてみたいという感情にとらわれます。
 
人間様のペットになっている動物の代表的な犬、猫いずれも人になつき、可愛らしさがあります。犬科でもオオカミは獰猛ですが、精悍さがあり、人間と付かず離れず、恐れながらも共存させようとしています。

私たちが住むコロラドでも、一度絶滅したオオカミを2年前にカナダからロッキー山系に移住させ、もう定着し、子供も生まれ繁殖し始めました。家族?郎党一族群れをなして雪原を駆け回っている様子は、ジャック・ロンドンじゃないけど『野生の呼び声』が聴こえてきて、自然が蘇ったかのように感動的です。

ところが、同じ犬科なのに、もっぱら屍肉をあさるハイエナの方は人気がありません。シッポをいつも後ろ足の間に挟むように下げ、一体ハイエナが喜びを表すため、尾を振ることがあるのかしらと思わせます。ハイエナも集団、家族で行動しているのですが、ライオンやヒョウ、チータが獲った獲物を横取りするため、遠巻きにして、隙あれば一口の屍肉にありつこうとしているのです。

それにあの陰険な顔付きはどうでしょう。誰もペットにしようとは思わないでしょう。ところが、『ナショナル・ジオグラフィック』(2024年3月号)に掲載されたフォトジャーナリスト、ジェン・ガイトンのハイエナの記事と写真を見て、私がいかに外見に拘っていたかを知りました。ハイエナの仔犬(子ハイエナ)はあれでなかなかメンコイのです。

外見に拘ってモノゴトを判断してはいけないのであります!

とは言っても、犬族でも人気があるのはプードル、チワワ、ハッシュパピー、リトリバーで、誰もハイエナをトレーニングしてペットにしようとは思いません。

それは鳥類でも同じで、禿げタカやカラスは嫌われているのに反し、獰猛な鷹や鷲は国や皇族の紋章にまで出世しています。ここコロラドの道路でも車にはねられて死んだウサギやリス、スカンク、ラクーンなどの死体、腐肉を食べてくれ、道路掃除を担っているのはカラスなのですが、誰も感謝の念を抱かず、カラス保護に乗り出しません。

一方、平和のシンボルになったハトは糞をそこいらに撒き散らすにも拘わらず、大切にされタバコのマークになりその名も“ピース”ですが、禿げタカ、禿げワシマークのタバコだったら誰も買わないでしょうね。

同じ海洋生物でも、愛嬌があり船の近くを飛び遊ぶように泳ぐイルカは人気があり、大切にされていますが、サメの方は何にでも食いつく食性の荒さ、テーブルマナーの悪さが災いして、嫌われ者、海の悪役を振り当てられています。でも、漁師さんにとっては、イルカの被害、網を破り、中の魚を食い散らすなどは、サメよりもズーッと大きのだそうです。

人間界においても外見などは大事でない、心のあり方が一番大切だと教えられ、言われ続けてきました。でも、ギリシャ、ローマの彫刻は圧倒的な肉体の中に秘めているパワーを表している、外見を重んじていると思います。

筋肉がまるで付いておらず、下っ腹がぽっこり膨れた銅像を作り出す芸術家もそれを観たいと思う人もいません。ルネサンス期の裸婦群、ミケランジェロのダヴィデ像、天地創造などなど肉体オンパレードで、内面がどうのこうのというせせこましいものではなく、明らかにまず初めに力強く、若々しき肉体ありき、なのです。

外見の美を素直に認めることは、一つの偉大な思想だと思うのです。

現実に帰って、私の一番下の妹は、顔、体型、どれをとっても美形で、本人もそれを分かっているのか、いつも最新デザイナーの服を着ています。彼女が日本に来た時、連れ添って幾日か東京を歩いたことがあります。私が一人で、またはダンナさんと一緒に歩いた時には全く感じなかったのですが、妹と一緒にいると、ともかく人が観るのです、人目を引くのです。

一度、私たちの前に中年の男性が飛び出してきて、「おゝ、貴女は女神だ! 私は貴女が現れるこの日をズーッと待っていた」とまで言い出したのです。もちろん、私にではなく妹に向かってです! 妹の方は観られること、人の目を集めることに慣れているのでしょう、それが当然とばかり、いかにも自然に振舞っていました。しかし、私は注目されることに慣れていないせいでしょうか、なぜか妹と一緒に街を歩き、観られると疲れてしまうのです。
 
目の前に飛び出してきた男性にしても、妹の内生を観て、彼女の人格を知ってのことではなく、ただ外見の美しさに感動したのです。実際の彼女は、実業家と呼んで良いほどビジネスセンスを持つ起業家で、十数人の社員を抱える会社を経営しているのですが…。

そう言えば、彼女は何度も交通違反でストップさせられていますが、そこは大きな目をしばたいて、素直に「ごめんなさい、心配事があって、注意散漫になっていたの、ごめんなさ、許してください」とやり、罰金を免れています。

私が田舎のお巡りさんにたった5、6マイルオーバーで罰金を食うのとはえらく違います。やはり外見の美しさはあらゆる方面で実益があるのです。
 
「私は醜いアヒルの子だけど、見て見て、私の心はこんなに綺麗なのよ!」といくら言っても、世の中では通用しないものらしいのです。

 

 

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Grace Joy
(グレース・ジョイ)
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中西部の田舎で生まれ育ったせいでょうか、今でも波打つ小麦畑や地平線まで広がる牧草畑を見ると鳥肌が立つほど感動します。

現在、コロラド州の田舎町の大学で言語学を教えています。専門の言語学の課程で敬語、擬音語を通じて日本語の面白さを知りました。

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