第874回:ハロウィンはカボチャとお化けの日
今、このコラムを書いているのは10月の31日、ハロウィンです。元々カトリックの死んだ人の霊を祭る11月1日の前夜祭になります。それがいつの頃からか子供たちが、アメリカでのことですが、近所の家々を訪れ、「トリックかトリート!(trick or treat)」、何か良いモノ、早く言えばお菓子をくれなければ、魔法をかけるぞと呪文のように唱え、お菓子を集める日になってしまいました。
その時いかにも魔法の力がある霊の化身のような衣装をするのが、習わしのようになっています。トリートを用意している家の前には大きなカボチャをくり抜いた恐ろしげなランタンを置き、魔除けにしていたものですが、今ではそんなことから離れ、どこのスーパーでも橙色をした大きなカボチャと子供たちのための衣装の特別コーナーを設け売っています。
どうにも何事も即ショーバイに結びつけるのがアメリカの特徴ですが、ハロウィンでもスーパージュニアなどで意匠を凝らした怪獣、お化け、骸骨の仮面や衣装を売り出し、カボチャは外に並べて大売り出しを展開していいます。
子供にあげるお菓子に使うお金は今年3.5ビリヨンドル(35億ドル;約5,360億円相当)で、子供だけでなくハロウィン用、あるいはハロウィンパーティーのための衣装に全米で3.8ビリヨンドル(38億ドル;約5,790億円相当)ものショッピングをしている…といいますから、ハロウィン商売はとても大きなものになっています。
地区ごとに芯をくりぬき、彫り込んだカボチャのコンテストがあり、と同時に一番大きなカボチャのコンテストも毎年のようにあちらこちらであり、今年の最高というのか、最大のカボチャは1,000キロ以上の新記録になりそうです。
谷間の町はずれに住んでいた時、私たちもカボチャを掘り抜き、奇妙なお化けのような顔の中にローソクを立て、すでにメーカーで小さくパッキングしたチョコレートやクッキーなどを用意して子供たちの到来を待ったものです。
私が子供の頃は…などと言い出すと、いかにも年寄りくさく聞こえますが、お菓子はすべて各家庭で焼いたクッキーやブラウニーなど手作りのものでしたし、私たち兄弟が着た衣装も、母がありあわせの布で造ったものでした。
今では、子供だけで、たとえ町内であろうと、夜家々を回るのは危ない、悪い人が子供にイタズラをするかもしれない、誘拐事件に繫がるかもしれないと、親が車で我が子をその家の前まで運び、子供たちは親が見守る中、車から家の玄関まで歩くのが当たり前になっているようなのです。
主に子供のいる家庭だけなんでしょうけど、だんだん家や庭先のハロウィン用の飾りつけが派手で大掛かりになってきていて、等身大の骸骨を庭番のように門に置いたり、箒にまたがった魔女が玄関の上を飛んでいたりします。ハリーポッターの影響かもしれませんね。今ほど、魔女、悪魔、骸骨が溢れている時代はなかったように思います。
お化け、幽霊が脚光を浴びるのがハロウィンです。テレビでもどこそこのお屋敷には幽霊が住み着いている、と目撃者の体験談を語らせたり、ある古いホテルには確実に不可解な女性の声が聞こえてくる部屋があるとか特集番組を組んでいます。
面白いのは、普通お化けが出るホテルに誰も泊まりたくないと思うのですが、今では逆にそれがウリ、キャッチフレーズになり、かなり前から予約しないとお化け部屋が取れないというのです。幽霊がホテルの宣伝に一役かっているのです。
代表的なのはコロラド・ロッキー国立公園内のエステスパークにある“スタンリー・ホテル”でしょうか。最も先鞭をつけたのはスーパーパワー、お化け物語専門小説家スティーブン・キングの小説『シャイニング』なのですが、今では嘘、作り話から出たコマならぬ幽霊?が実在するようになり、子供の笑い声が聞こえ、誰もいないサロンに置いてあるピアノが鳴り出すというのです。そこでホテル側も“精霊の夜”のツアーまで組んで、ホテルの宣伝にこれ努めています。
また、高級リゾート地アスペンからほんの10マイルほどの距離にある“アッシュクロフト”という半ばゴーストタウンは、ゴーストが住みついている本当のゴーストタウンとして有名で、アスペン歴史協会がオーガナイズしてアッシュクロフトのガイド付きツアーを行なっています。
ツアーの売りは、“コロラドでもっともたくさんのお化けが住む町”で、ツアーは大人35ドルとかなり高価です。どんなお化け、幽霊に遭うかはお金を払ってツアーに参加してください、失望はさせませんと言っています。
もう一つ挙げれば、ロッキーの東側、ひと昔前まで金山で栄え、今は公認のカジノが開かれ、デンバーのギャンブラーを集めている“セントラル・シティー”です。もっとも、カジノにお化けが現れるわけではなく、町に付随するようにある古い墓地で不可解な灯りが多く観られ、その墓地メイソンを夜訪れると誰かが後をつけている気配がし、振り向くと小さな少年が木立を縫うように見え隠れしているというのです。
それより確実にお化けに出会いたいのなら、年に2回、ジョン・エドワード・カメロンのお墓の後ろに黒い衣装を着た女性の幽霊が現れるというのです。確かに見たという人は大勢いるのですが、彼女、恥ずかしがりで写真嫌いなのか、写真に撮られたことはありません。
日本でも、ただ若者文化、変身願望からかハロウィン・パーティーが年々盛んになっていると報道されています。でも、日本では幽霊、お化けはお盆にだけ活躍し、輸入されたハロウィンの日にまで登場しないのではないでしょうか。
しかし、どこの誰が一本足の傘のお化け、なすびやきゅうりに目鼻が付き、足がニョッキリ生えたお化けを創作したのかしら、あんなものを怖がる人はいないと思うのですが…。
第875回:お化け、幽霊の銃火器
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