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第24回:サンドクリークとウィリアム・ベント

更新日2023/06/29

 

サンドクリーク虐殺時にその現場におり、生き残った人たちはサンドクリークの残影を負って生きる運命にあった。それほど衝撃的な体験だった。

ウィリアム・ベントはインディアンとの交易で成功を収め、自らトレーディングポスト(交易所)のベント砦を築いている。それは開拓者やインディアンに日常必需品、雑貨をもたらし、またインディアンから毛皮などを買い上げる西部になくてはならない拠点だった。

当時の移民たちには主に船を利用できる二つのルートがあった。一つはニューヨークから運河でオハイオ川に入り、ミシシッピー川を遡り、セントルイスからミズーリー川を西へ航行、現在のカンサスシティーの東に位置するインディペンダンスに至る航路で、もう一つは、ニューオーリンズからミシシッピー川でそのままセントルイス、そこでニューヨークからの便と同じ航路を取り、インディペンダンスまたはウェストポートに集結するルートで、ハックルベリー・フィンが活躍するリバーボート全盛の時代だった。

西を目指す開拓者、山師、実業家たちの多くはウエストポートで船を降り、そこから陸路でサンタフェトレイルを馬車で西に向かった。

ベントが最初に築いた交易所は(現在、旧ベント砦、現在再構築されて博物館になっている)は長い平原の旅を終え、山岳地帯に取り着くところにあった。しかも、ベント砦は移民団がミズーリーを離れてから、次の町らしい町であるサンタフェまでの間、骨休めができ、食料の補給、馬車、ワゴンの修理、馬の蹄鉄の交換などがインディアンに襲われる心配をせずにできる唯一のところだった。

また、ウィリアム・ベントはインディアンたちと友好を保つことが、この砦、交易所を繁栄させる唯一のやり方だと見抜いていた。

ウィリアム・ベントは、西部開拓時代の申し子だった。父親はセントルイスの判事だったから相当教養のある人物だったのだろう。だが、息子である兄のチャールス(1799生まれ、1847年没)とウィリアムは西部熱に侵され、毛皮交易が良い商売になることに目を付け、1829年にサンタフェまで行っている。チャールス30歳、ウィリアム20歳の時のことだ。

No.24-01
チャールス・ベント
インディアン、メキシコそしてアメリカを
大きな視野で見ることができた人物だった

兄のチャールスの方はまだ政情が安定していないメキシコ、現在のニューメキシコのタオスに基地を置き、現地の勢力家の娘と結婚し、アメリカとメキシコ、そしてインディアンとの交易を盛んにした。ニューメキシコ領域の知事にまでなっている。が、1847年にプエブロインディアンに暗殺されている。

一方、弟のウィリアムはセラン・セントヴレイン(Ceran St.Vrain)と共同で交易会社を設立し、ベント砦を建設した。

前置きが長くなってしまった。 
サンドクリークに絡んで西部開拓時代のユニークな人物がたくさん浮き上がってきた。その一人がウィリアム・ベントで、彼はシャイアン族の娘と3度結婚し、シャイアン族の中で同族として認められるほどになっていた。

最初の妻は、フクロウ女(Owl woman)で4人の子を成している。長女のメリー、長男ロバート、次男ジョージ、そして次女のジュリアだが、妻のフクロウ女はジュリアの産褥で死亡し、その後すぐにフクロウ女の妹イエローウーマンと結婚している。彼らの間に叔父と同じ名前、チャールスと名付けた男の子をもうけている。だが彼女、イエローウーマンはシャイアン族とポニー族との争いでアメリカ軍の斥候をしていたポニーインディアンに殺された。その後、末娘アイランドと結婚しているから、3姉妹と結ばれたことになる。このように姉が亡くなった後に妹が入るのは、シャイアン族ではよくあることだった。

No.24-02
ウィリアム・ベント
実に彩り豊かな生涯を送った
ユニークな変人オンパレードの西部開拓史にあっても際立っている

ウィリアム・ベント自身、シャイアン族の中で暮らし、子供たちをシャイアン族の伝統の中で育てたが、同時に子供たちを(ジュリア以外の皆)ミズーリー州、ウエストポートのアメリカ(白人)の寄宿学校に入れている。シャイアンとアメリカの両面を学ばせようと意図したのだろう。

ウィリアム・ベントは、自身がシャイアンとアメリカのハザマにあって多くの証言をし、記録を残したが、なんと言っても双方の社会を体現し、文化、言葉に明るい子供たち残した役割は大きい。悲劇的な末路に終わった者も多いが、現在、彼らのおかげでシャイアン族の内部、生活を知ることができるし、合衆国とインディアンの関係を知る手がかりを残してくれた。

1867年、末娘のアイルランドを失い、独り身になったウィリアム・ベントは、インディアンと混血の娘、アデリーン・ハーヴィー(Adaline Harvey)と度目の結婚をしている。このアデリーンは大変な浮気者で、また彼女自身、自分が男どもを惹きつけることを十分承知しており、それを存分に振り撒いた。アデリーンは1869年1月にシャイアン族の若き戦士とどことなく消えた。ウィリアムはサンタフェからコロラドに帰る途中、月の大雪に見舞われ、そこで倒れ、二度と起き上がることができなかった。享年60歳。

サンドクリーク虐殺が起こった時、ウィリアムはその場にいなかったが、息子たち、ロバート、チャールス、ジョージそれにジュリアとメリーは殺戮現場にいた。

-…つづく

 

 

第25回:ウィリアム・ベントの子供たち その1

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佐野 草介
(さの そうすけ)
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海から陸(おか)にあがり、コロラドロッキーも山間の田舎町に移り棲み、中西部をキャンプしながら山に登り、歩き回る生活をしています。

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バックナンバー
第1回:消えゆくインディアン文化
第2回:意外に古いインディアンのアメリカ大陸移住
第3回:インディアンの社会 その1
第4回:インディアンの社会 その2
第5回:サンドクリーク前夜 その1
第6回:サンドクリーク前夜 その2
第7回:サンドクリーク前夜 その3
第8回:サンドクリーク前夜 その4
第9回:サンドクリーク前夜 その5
第10回:シヴィングトンという男 その1
第11回:シヴィングトンという男 その2
第12回:サンドクリークへの旅 その1
第13回:サンドクリークへの旅 その2
第14回:サンドクリークへの旅 その3
第15回:そして大虐殺が始まった その1
第16回:そして大虐殺が始まった その2
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第18回:サンドクリーク後 その1
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