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第25回:ウィリアム・ベントの子供たち その1 

更新日2023/07/06

 

サンドクリークにテロリスト集団であるドッグソルジャーのメンバーはいなかった。ブラック・ケトルやホワイト・アンテロープに導かれた和平派のシャイアン族、アラパホ族だけだった。だが、白人、騎兵隊が無差別殺戮を行ったことで、かろうじて生き残った者は過激なドッグソルジャーになった。シヴィングトンが命じたサンドクリーク虐殺は、逆に過激なインディアン・テロリストを産むことになったのだ。
 
その筆頭がチャーリー・ベントだ。ウィリアム・ベントが2番目の妻イエロー・ウーマンに産ませたチャーリー(ウィリアムの兄と同じチャールスという名前なので、ここでは区別するため愛称でチャーリーと呼ぶことにする)は、白人とシャイアン族の混血、ハーフでウィリアムの末っ子にあたる。

チャーリーはサンドクリークで負傷しながらも、辛うじて生き延びた。傷を負ったチャーリーをサイラス大尉が保護し、命を救った。だが、チャーリーは騎兵隊が行った蛮行、殺戮、強姦、スカルプ(インディアンの頭の皮を剥ぐこと)、男性器を切り取りそれをインディアンの口に突っ込むこと、強姦したインディアン女性の性器を輪切りにし、それを勲章のようにかざすのを目の当たりにし、最も過激な対白人テロリストになったのだ。

ドッグソルジャーに加わるやいなや、白人とみると、即攻撃、拷問を加え、殺戮する最悪のメンバーになったのだった。彼は父親のウィリアムがシャイアン族を裏切ったとして許さなかった。それどころか、和平派の父親ウィリアムをブラック・ケトル共々殺すことを誓い、公言していた。
 
だが、1867年、サンドクリークから3年後、白人開拓部落襲撃の時に受けた銃弾で受けた傷が化膿し、この程度の傷は神が直してくれると放っておいたのが悪化し、それが元で死んだ。ドッグソルジャーたちには奇妙な信仰があり、首領格のローマン・ノーズに決して銃弾が当たらない、鉄砲玉が逸れてゆく、それにあやかろうと、ドッグソルジャーたちは顔、身体に戦闘メイクアップを施し、頭にはまるで小山のように羽飾りを付けた。もっとも、第二次大戦に出兵する際、千人針の布を腹に巻いたりした我々は、ドッグソルジャーたちの弾除けの化粧を笑うことなどできない。

No.25-01
ハリウッド的インディアンの羽飾りとは異なり、いかにも恐ろしい感じがする
顔に塗った白い化粧も死神のようだ
これはもちろん当時の写真ではなく、近年になって、復元したものだが…

ウィリアムとフクロウ女の間にできたジョージ・ベントも、サンドクリークの悲惨を体験した。自身も尻に銃弾を受け動けなくなり、九死に一生を得た。彼はブラック・ケトルの和平交渉の通訳をつとめた和平派だったが、白人ども、騎兵隊が体良くインディアンを不毛のサンドクリークに押し込め、そこで絶滅を図った、白人どもは裏切ったと取った。

彼が設定し、また通訳として、シャイアン族、アラパホ族とコロラド領域の知事ジョン・エヴァンスとの協約、キャンプ ウエルド会議を実践したその協約を白人どもが破ったのだ。当然の成り行きとして、彼、ジョージも、ドッグソルジャーの主要メンバーになった。その時、ジョージは21歳だった。ジョージは騎兵隊員、白人開拓者の間で“鬼”と恐れられる存在になった。

混血であるが白人の特徴を持つ大男のジョージは、ドッグソルジャーの間でも目立つ、人目を引く存在だったのだろう。傷が癒えるや、サンドクリーク後3ヵ月と経たず、ジュレスブルグ(Julesburg)の襲撃で八面六臂の活躍?で、白人殺害を繰り広げた。その後もテロ、白人襲撃を続け、彼は恐れられ、騎兵隊はジョージを名指しでマンハントに乗り出した。

No.25-02
ジョージ・ベントと妻のカササギ女
おそらく1867年、ジョージが降伏、自首した後に撮影されたモノだろう

ジョージは、ドッグソルジャーとして白人を殺害し続けることに絶望したのだろう、それに、彼自身が白人として教育を受けていたことも作用したのだろうか、オクラホマのインディアン・リザベーション(インディアン居留地区)に入り、そこで自首した。

合衆国政府は彼を罰せず、それどころか通訳として、ジョージを公式に雇っている。シャイアン語を流暢にこなせる人材がよほど不足していたのだろうか。確かに、ジョージは言葉だけでなく、インディアンの内情を掴んでいたし、西部の現状を彼ほど広く、大きな目で観ることができる人物は他にいなかった。インディアン、主にシャイアン族と合衆国政府の間に立ち、伝説的な活躍をした。
 
ジョージ・ベントは長生きした。シャイアン族の居留地に原油が出たことに伴い、強制的にシャイアン族は他の居留地に移動させられ、ジョージは猛烈に抗議したが、1918年に強制移住させられた居留地で死んだ。彼が残した膨大な手紙、上申書、抗議文は貴重な史料になっている。

長男のロバート・ベントもサンドクリークで生き残った。ロバートはあくまでシャイアン族と白人との間に和平が成り立つと信じていた節がある。強制的にではあるが、ライアン砦から騎兵隊をサンドクリークまでの道案内をさせられている。インディアンシンパのサイラス大尉がいる以上、いきなり部族絶滅を図ることはないと見込んでいたのだろうか。シヴィングトンのインディアン、自分の部族、シャイアン族をサンドクリークで皆殺しにする意図を見抜けなかったのだろうか、いずれにせよ、斥候、道案内として騎兵隊をサンドクリークに導いたのはロバート・ベントだった。これを知った末っ子のチャーリーが、親父のウィリアムと兄貴のロバートを許せない裏切り者とし、殺害リストに挙げたのもこんな理由があったからだ。

だが、ロバートは騎兵隊幹部とともに小高い丘の上から、自分の部族が殺戮されるサマを見なければならなかった。その様子を後になって公聴会で証言している。彼がいくら言葉を尽くして騎兵隊の残虐さを描写しようが、その時、彼は丘の上から一方的にシャイアン族の女、子供が騎兵隊に残酷極まりないやり方で殺されていくのを見ていた事実は残る。

父親のウィリアムの死後、ロバートは交易所を引き継いだ。
時折、通訳として雇われたりしたが、最後はインディアン居留地区内で1889年に死んだ。

-…つづく

 

 

第26回:ウィリアム・ベントの子供たち その2

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佐野 草介
(さの そうすけ)
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海から陸(おか)にあがり、コロラドロッキーも山間の田舎町に移り棲み、中西部をキャンプしながら山に登り、歩き回る生活をしています。

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第1回:消えゆくインディアン文化
第2回:意外に古いインディアンのアメリカ大陸移住
第3回:インディアンの社会 その1
第4回:インディアンの社会 その2
第5回:サンドクリーク前夜 その1
第6回:サンドクリーク前夜 その2
第7回:サンドクリーク前夜 その3
第8回:サンドクリーク前夜 その4
第9回:サンドクリーク前夜 その5
第10回:シヴィングトンという男 その1
第11回:シヴィングトンという男 その2
第12回:サンドクリークへの旅 その1
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