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第449回:流行り歌に寄せて No.249 「二人の世界」~昭和46年(1971年)2月5日リリース

更新日2022/12/15


高校受験の受験勉強に打ち込んでいた時期だった。だから、この曲の元となったTBSのテレビドラマ『二人の世界』を観てはいなかった。これは、毎週火曜日の夜9時から30分枠での『木下恵介アワー』という連続番組の中の一作品で、昭和45年12月1日から翌年の5月25日までの半年間放映されたものだ。

竹脇無我と栗原小巻が主演の作品。二人は出会ってから短期間で結婚をし生活を始めるが、いくつかの困難が待ち受けている。しかし、それをお互い協力しあって乗り越えていくという展開のドラマで、脚本は山田太一によって書かれている。

あおい輝彦は、栗原小巻の弟という設定で、彼がこのドラマの主題歌を歌った。
かなり人気のあった作品らしく、その後CS放送や、地方放送局などで何回か放映されているが、残念ながら観る機会に恵まれていない。
(このドラマの3年前、昭和43年制作の『木下恵介アワー』、同じく山田太一脚本、竹脇無我、栗原小巻、あおい輝彦(こちらは竹脇無我の弟という設定)出演の『3人家族』は、比較的最近CS放送で観ている)。

私が実際に、この『二人の世界』を聴いたのは、一応志望の高校に入学した後のことだった。とても暖かく、優しい感じの曲で、すぐに好きになった。実に単純な私は、この曲のような素敵な高校生活が送られるのではないかと、勝手に思い込み、胸を躍らせたものである。


「二人の世界」  山田太一:作詞  木下忠司:作・編曲  あおい輝彦:歌


つめたい風の街で ぼくは君と会った

生きてることを 空の広さを

ぼくは君と共に知った

 

二人の世界があるから

だから明日にかけるんだ

二人の世界があるから

だから明日にかけるんだ

 

夜の闇の中でも ぼくは君が見える

声をかき消す 風の中でも

ぼくは君の声を聞く

 

*二人の世界があるから

だから強く生きるんだ

二人の世界があるから

だから強く生きるんだ

 

あおい輝彦と言えば、当時の私たちにとっては、何よりアニメで放映されていた『あしたのジョー』の矢吹丈の吹き替えとして有名な存在だった。

「へへっ、とっつぁんよぉ」と丹下段平に話しかけるジョーの声は、今でも耳の奥から離れることがない。もちろん、丹下段平役の藤岡重慶の「立つんだ、ジョー!!」も忘れ難いが。

私よりもう少し年配の方々は、いわゆる元祖ジャニーズのことをよく知っていて、当時のあおい輝彦を語るが、前にも書いたけれど、私は『不二家ルックチョコレート』のCMの印象のほかは、ジャニーズのことはあまりよく覚えていない。

もう一つ、この曲のリリースよりも1年少し後になって始まった、ニッポン放送のラジオ番組『あおい君と佐藤くん』を覚えている人も多いと思う。これは、花王石鹸(「花王フェザークリームシャンプー」のコマーシャルも兼ねた、やわらかく澄んだ女性の声による「ラブ・ヘアー・ポエム」の朗読が印象に残る)提供の深夜0時から10分間流されていたトーク番組。あおい君ことあおい輝彦と、佐藤くんこと佐藤公彦(ケメ)の掛け合いがとても穏やかで楽しかった。

話が横道に外れてしまったが、あおい輝彦はその後も「君がいても」「あなただけを」「Hi–Hi–Hi」「センチメンタル・カーニバル」などのヒット曲を出して、歌手業と、水戸黄門の佐々木助三郎役などの俳優業の二刀流を見事にこなしている。

作詞は、山田太一。この人は言うまでもなく日本を代表する脚本家であり、また小説家である。作品の数は枚挙に遑(いとま)がない。最近、私は『岸辺のアルバム』を丹念に観返しているが、本書きとしての彼の技量に、あらためて敬服している。

この人が作詞をするのは珍しく、この曲の他で有名なのは、同じく自身の脚本による昭和47年度のNHK連続テレビ小説『藍より青く』のテーマ曲『耳をすましてごらん』(湯浅譲二:作曲、本田路津子:歌)くらいである。

作曲の木下忠司は、映画監督の木下恵介の実弟である。『カルメン故郷に帰る』『二十四の瞳』などの兄の作品の他にも、実に多くの映画やテレビ作品の音楽を手がけた、この世界の大御所である。(ご長命であったが、残念なことに4年前に102歳の誕生日の後、まもなくお亡くなりになっている)。

こちらも、作品の数は枚挙に遑がない。しかし、この作曲家も歌モノとしての作品は、それほど多く作られていないのが特徴である。

ということで、この曲は作詞、作曲者ともに、本来のご専門とは少し違うお仕事をされたことによりできた作品と言える。「あおい輝彦のアップ・テンポのヒット曲も、もちろん良いけれど、やはり『二人の世界』が一番好き」と言うファンも多いと聞く。

それぞれの世界で、日本を代表する才能の持ち主二人の出会いによって作られたものが、こんなにも暖かく、優しい曲であったと言うことは、しみじみとうれしい思いがするのである。

 


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金井 和宏
(かない・かずひろ)
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1956年、長野県生まれ。74年愛知県の高校卒業後、上京。
99年4月のスコットランド旅行がきっかけとなり、同 年11月から、自由が丘でスコッチ・モルト・ウイスキーが中心の店「BAR Lismore
」を営んでいる。
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