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■亜米利加よもやま通信 ~コロラドロッキーの山裾の町から
 

第875回:お化け、幽霊の銃火器

更新日2024/11/14


と、奇妙なタイトルを付けましたが、これは米語の“ゴースト・ガン”(Ghost Gun)を日本語に無理して訳したものです。アメリカでいうゴースト・ガンは、日本での鉄パイプ切って作った自作銃、安倍元首相を殺害した、チャチなオモチャのような銃ではなく、パーツをインターネットの通信販売で購入し、プラモデルのように組み立て作ったもので、性能は銃火器の一流?メーカーのモノと全く変わりません。

唯一の違いは、銃火器メーカーに義務付けられている製品番号が打ち込まれていないことだけです。よって、犯罪に使われても痕跡が掴めず、若者のギャング団が使うピストル、短機関銃、AR−15(アサルトライフル銃)などのように追跡ができないのだそうです。
 
ドライバー一本で誰でも簡単に組み立てることができ、そのやり方などは懇切丁寧にインターネットに載っているのです。チョットそのサイトを覗いてみたら、私でも簡単にM−16くらいなら組み立てられそうです。それ用のあらゆる銃弾は、スーパーでもインターネット通販でも買うことができます。
 
現在、アメリカに3億5,000万丁のピストルなどの銃火器が出回っていると推定されていますが、そのうち500万丁は製造番号のないゴースト・ガンだとみられています。それにしても、アメリカ国内に重火器が溢れているのです。これでは、国内で1分間に1回のペースでガン関連の犯罪、事故が起こるわけです。こんな調子で殺し合っていたら、じきアメリカ人がアメリカにいなくなるのではないかしら。
 
トランプ前大統領が狙撃され、危うい命を拾いました。レーガン大統領もお腹にピストル弾を喰らいましたが、命は取り留めました。ケネディ大統領は即死、次の大統領になるのが確実とみられていた弟のロバート・ケネディは選挙運動中に射殺されました。

偶然かもしれませんが、共和党員は二人とも命拾いをしましたが、民主党のケネディ兄弟は死にました。これをもって、NRA(National Rifle Association;全米ライフル協会)からたっぷり政治献金を貰っている共和党員から弾は外れていく…とは言えないでしょうけど…。

バイデン大統領がどうにかゴースト・ガンの規制を合衆国政府議会で通させましたが、実際にゴースト・ガンを違法とする州はまだ15州しかありません。ですから、地続きのアメリカで、ある州で規制しても、すぐ隣の州に行けば組立キットが購入できるのですから、実際の抑止効果はあまりありません。

銃火器で2020年の統計ですが、5万人が命を落としています。これは中程度のアメリカの町の人口に相当し、町の住人すべてが絶滅しているのと同じです。そして驚いたのは、ピストルで自殺している人の方が殺人より多いことです。

ピストル自殺書者は2万5,000人以上で、銃火器による死者総数の60%以上を占めているのです。中でも少年、少女は1日で23人もがピストルで自らの命を絶っています。すべて、親や同居人の大人が、合法、非合法にしろ、家の中に置いている銃でズドンと1発、自らを撃っているのです。
 
一応、ピストル、ライフルなどの銃火器、弾丸は、金庫のように頑丈な安全ボックスに収納しておくことが義務付けられていますが、家にガンを置くのは、外から誰かが侵入してきた時の用心のためで、いざという時に素早く取り出せなければ意味がない、誰か家に入ってきたようだから、それじゃ銃火器収納金庫の番号を合わせ、鍵を取り出し、金庫を開けていたのでは、意味がありません。

よって、ピストルをいつでも取り出せる身近に置く人が大半なのです。たとえ子供たちの手の届かない、知らないところに隠しても、そう思っているは親だけで、子供たちは、そんな隠し場所なんかちゃんと知っているものです。

大都会のゲットーの少年ギャング団が持っている銃火器は、80%以上がゴースト・ガンだと言われています。これを規制するのは、お前の持っている拳銃はゴースト・ガンで違法だとやっても、あまり意味がありません。

組立ピストル、ライフル、機関銃を売っている方を取り締まらなければ、いつまでたってもゴースト・ガンはなくならないのは明らかです。手始めに組立ガンを全米で違法にし、販売元に捜査を入れることしかありません。

お巡りさんも全米に撒き散らされているガンを成り行に任せてタダ見ているだけではありません。1年間に没収したゴースト・ガンは6万5,000丁にもなりますが、それ以上の勢いで、ゴースト・ガンの売り上げは伸びているのです。まるで焼け石に水とはこのことでしょうか。

ゴースト・ガンをなくすことが、全米で合法的に買える銃火器の販売を取り締まることの第一歩になれば良いのですが…。

 

 

第876回:「若き日はふたたびあらず、歌えよいざ、良き友よ...」

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Grace Joy
(グレース・ジョイ)
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中西部の田舎で生まれ育ったせいでょうか、今でも波打つ小麦畑や地平線まで広がる牧草畑を見ると鳥肌が立つほど感動します。

現在、コロラド州の田舎町の大学で言語学を教えています。専門の言語学の課程で敬語、擬音語を通じて日本語の面白さを知りました。

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