第594回:移民は国を動かす ~無意味な鉄の塀
ローマ帝国が滅んだのは、ローマ人が蛮族とさげすんでいたフン族に押されたゲルマン民族や西ゴート族、ヴァンダル族が次々とローマに侵入してきたことが大きな要因でしょう。その後、ゲルマン民族もすっかりローマ化され、同化されるのですが…。
古い話が出たついでに、日本にも盛大に難民移民を受け入れていた時代がありますよね。日本の正史といわれる「古事記」や「日本書記」にも載っている弓月君という朝鮮の貴族が百二十県の人(およそ2万人くらいではないかと想像されています)を引き連れてやってきたとあります。
その後も、徳川幕府が鎖国令を敷くまで、実に多くの人たちが民族移動にも似た様相で日本にやってきて定着し、日本文化を築き上げています。もしそんな移民団が来なかったら、日本はポリネシアの島か、樺太のアイヌのレベルで19世紀を迎えていたかもしれません。
今、ヨーロッパの政治の一番大きな悩みであり、政策を左右しているのは移民、難民問題です。このところ、選挙の争点になるのは何百万と流れ込んで来る難民にどう対処するかということです。難民のニュースやドキュメンタリー映画を観るたびに、当事国である、トルコ、ギリシャ、イタリアは自分の国でも貧困、失業問題を抱えているのに本当に良くやっているな~、と感心せずにはいられません。
アメリカは元々原住民のインディアンが広い大地に散らばって部族ごとに棲んでいた土地です。そのインディアンも、アジアからアリューシャン列島を経て、アラスカ、カナダ、そしてアメリカへ移動してきた移民です。そこへ、17世紀になり、ヨーロッパからの組織的な植民が始まり、近代的な武器と農具を持ち込み、土地の所有観念のないインディアンから騙し取るように広大な土地を次々と奪って作り上げたのがアメリカです。いわば、ほんの少し世代を遡ると、アメリカ人は90数%が移民、難民の子なのです。
悲しい人間の性(サガ)なのでしょう、先に来たものは既得権を守るため、後から遅れてやってきた人たちを差別し、蔑む傾向があります。それどころか、「お前たち、もう来るな、帰れ! もう入れてやらない!」とやり出します。
今のアメリカがそうです。元はと言えば、西部の大半、テキサス、コロラド、アリゾナ、カリフォルニア、ユタ、ニューメキシコはスペイン領で、それを引き継ぐ形でメキシコの領土でした。それが今では、メキシコとの国境に醜い鉄板と鉄条網の万里の長城を築き、憲法で禁止されているはずの軍隊まで送って国境警備を始めたのです(軍隊がアメリカ国内で司法権を行使するのは違憲なのです)。
トランプ大統領は1万5,000人の兵隊さんを国境に送ると命令し、すでに7,000人がメキシコとの国境の町ノガーレス(Nogales)に駐屯しています。これらの陸軍は当然のことですが、国境警備隊や警察のような法的な逮捕権を持っていませんし、そのようなトレーニングを全く受けていない、兵器の扱いに長けただけの戦争屋です。
このように陸軍を国内に、メキシコ国境であっても派遣することに米軍の中からさえ反対の声が上がっています。元NATO軍第16最高司令官、ジェームス・スタフリディス将軍(James Stavridis;アメリカ人)は、タイム誌に記名入りで、国境警備に軍隊を派遣することがいかに無駄であり愚かなことか、またこのように米国内の治安のために軍隊を出動させることが、軍人としての訓練とはかけ離れたものであるか、理論的に展開して訴えています。そして、醜い鉄の塀が難民の流入を防ぐのに何の役にも立たないことも数字を挙げて述べています。
実際、メキシコ国境に派遣された陸軍兵士たちは、一種の休暇気分の土木工だと、安穏としている様子もレポートされています。と言うのは、メキシコから入ってくる人たちは100%武器など持っておらず、せいぜいが1ガロンの水が入ったペットボトルしか持ち歩いていないので、アメリカの兵隊さんは自分が殺される気遣いなど全くしていないからです。
兵士にとっては自分の家族から離れて広大な基地とも言えないキャンプ場で暮らさなければならないことを別にすれば、軍人としてこれほど気楽な勤めはない…と言うことになります。
横紙破りというのでしょうか、法を無視してやりたい放題権力を使っているトランプ大統領の国内派兵は、もう一歩進めると、アメリカ国内の治安のためにどこの州、町へも軍を出動させる危険性を含んでいます。
外交に目をやっても、トランプ大統領をマジメに本気で相手にしてくれる国はなくなりつつあります。オトモダチの金正恩とプーチン、気弱な弟分の安部さんだけになってしまいました。
どこから観ても尊敬に値しないという点で、トランプ大統領は歴史に残ることになるのでしょうね。
-…つづく
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