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■亜米利加よもやま通信 ~コロラドロッキーの山裾の町から

第595回:教会でセクハラを受けた子供たち

更新日2019/02/07



クリスマス、お正月と年老いた両親の実家で過ごしました。私たちの山の家では電波が届かず、テレビが映りませんので、実家でできるだけニュースを観るように心がけていました。

カンサスシティーの地域ニュースで、さえない服装のお爺さん、叔父さん連中5人が小さなプラカードを持って教会の前で何やらデモンストレーションをしている様子が映し出されました。

インタヴュアーの質問に応え、一人の叔父さんが静かな口調で、「この教会の牧師がどんなにありがそうで偉そうなことを言ったところで、陰で子供たちに強要するようなセックスハラストメントをしている。その上、教会自体がそんな事実を組織的に隠そうとしている。私たちは子供の時に、何度となくセックスを強制されただけでなく、それが神様が望んだことだと言われ、また、一切口外するな、もし他の人に告げたら、お前の家族全員が地獄に落ちると脅され、悲惨な少年時代を過ごしてきた。やっとこの年になって(叔父さんたち、60-70歳くらいでしょうか…)、自分の妻や家族に打ち明けることができるようになったが、これまで地獄の苦しみを味わってきたのだ…」と、淡々と朴訥に語ったのです。

ペンシルバニア州に端を発したカソリック教会の司祭のセックス・スキャンダルは、カソリックだけでなく、多くの宗派にも広がりました。昨年の8月にペンシルバニア州の裁判所が確定したカソリック教会の幼児、少年への強姦は1,000件に及び、名を連ねた司祭は300人にもなります。ですが、これも氷山の一角で、全米で3,000件を越すだろうとみられています。

地獄を潜り抜けてきた“サーヴァイヴァー(生存者)”が、強姦者である司祭と直に顔を合わせ、相手を糾弾し、裁判に持っていくのはとても難しいことです。なにぶんにも、30~50年前のことですし、相手は信者に尊敬されている牧師さんなのです。 

マイケル・ノリスさんは、1973年のケンタッキー州で、教会が主催するサマーキャンプに参加して、ツタウルシにカブレ、その時、キャンプのリーダーだったジョゼフ・ヘンメル司祭にウルシのかゆみ止めの薬を塗ってもらったのがキッカケで、その後、頻繁にヘンメル司祭のセックス相手を強制されるようになりました。マイケルさんはそれでも親から代々守ってきた宗教を捨てきれず、カソリック系の高校へ進み、そこでも皮肉なことにヘンメル司祭が教区を担当しており、また地獄のセックスを強要され、マイケルさんはアルコールとマリファナに逃げ道を見付けるしかなく、何度も自殺を試みました。

彼はテキサスの大学で化学技術の学位を取り、その専門分野の仕事に就き、結婚して子供ができた1996年、サマーキャンプでの悪夢の初めから数えて23年後に、初めて奥さんに打ち明け、彼の両親にも告白したのです。それからも、教会を相手取って、まさにイバラの道を歩み、裁判にまで辿り着くことができて、ジョゼフ・ヘンメル司祭を有罪にしたのでした。

以上の話は、『The Christian Science Monitor Weekly』誌の2018年、11月5日号に載った記事の要約ですが、インターネットで各州の地方誌をチェックすると、なんとまぁ~飽きれるくらい何百、何千という犠牲者の記事で溢れているのです。

『Star Telegram』誌はケリー・ジョンストンさんの悲惨な記事を4ページに渡って載せました。このように、少女、少年を教会の司祭、牧師たちが強姦するのは、まるでアメリカ宗教界の伝統になってしまったかのようにさえ見えます。卑劣でなんとしても許せないのは、司祭、牧師たちが、子供たちを心理的に抵抗できない状態に追い込み、セックスを強要し続けたこと、と同時に、教会側がそんな事実を知りながら、子供たちの口を塞ごうとし、強姦犯の牧師、司祭を組織的に、巧みに庇ったことです。

逆に、“Speak Out”(スピィークアウト;公にマスコミに訴えた)し、教会の上部のあり方を批判しようとした子供たち、かれらの親を、教会、信者が逆に弾劾しているのです。あの娘はアバズレで、誰とでも寝ていた、大変なウソつきだ、司祭、牧師はむしろ被害者だ、百歩譲っても、私たちの教会の権威を傷つけるような虚言は許さない…と、被害者をバッシングし続けてきたのです。

近年になって、やっと“Me too, Movement”(ミートゥー・ムーブメント;私もヤラレタ!運動)が盛んになり、社会的に無視できない運動にまで成長し、被害者をサポートする団体、カウンセラーや弁護士に接触しやすくなったおかげで、やっとという感じですが、公になってき始めたと言ってよいでしょう。とは言っても悲しいことに、何年も前の事件を立証するのはとても難しく、相手はお金なら山ほどある宗教団体ですから、実行犯を実刑にまで持っていけるケースは悲しいことに希(マレ)なのです。

アメリカに比べ教会に行く人(Church goers;毎週教会に通う人)がガグンと少ない日本での統計を調べようとしましたが、そんなデーターは見つからず、小、中、高の教員がセックスがらみで懲戒になったデーターに行き当たりました。2017年に文部省に報告された例は210件あり、そのうち120人が懲戒免職になっています。ほとんどがオサワリ、ノゾキ事犯で、104件が報告され、セックスまで及んだ事件は28件とあります。アメリカの天文学的数値とはとても比較になりませんね。

アメリカの性暴力の統計をもっと知りたい方は、下記のサイトを確認してみてください。あまり詳しく知るとアメリカ嫌いになり、アメリカに行きたくなくなるかもしれませんが……。

The rape abuse & incest National network(RAINN)

The National Sexual Violence Resource Center(NSVRC)

-…つづく

 

 

第596回:台頭するインド人移民

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Grace Joy
(グレース・ジョイ)
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中西部の田舎で生まれ育ったせいでょうか、今でも波打つ小麦畑や地平線まで広がる牧草畑を見ると鳥肌が立つほど感動します。

現在、コロラド州の田舎町の大学で言語学を教えています。専門の言語学の課程で敬語、擬音語を通じて日本語の面白さを知りました。

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