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■西部夜話~酒場サルーンと女性たち

第21回:酒場サルーンと女性たち その21

更新日2025/12/11

■パール・デ・ベラ(真珠のベラ)

極めつきの娼婦“パール・デ・ベラ(真珠のベラ)”と呼ばれていた女性の出生は未だに不明だ。本人も語らなかった。ベラは金銀鉱のブームに沸くクリップル・クリークにやってきた。それは1893年のことで、今から見るとクリップル・クリークのゴールドラッシュ・ピークの時だった。

ベラの娼館は、ほとんど一夜で大成功を納めたと言われている。そして、その名をクリップル・クリークだけなく、コロラド州全域に知られるようになるまでそう時間はかからなかった。

ベラの生い立ちは分かっていないが、デンバーで“ミセス・マーティン”の名で通っていた高級娼婦だったことは確かだ。

それ以前、どこで育ったのか、好き者の西部史家はインディアナ州のエヴァンスビルの豊かな家族の娘で、そこで富裕層の婦人向けのドレスをデザインし縫っていた、とベラが晩年に至るまで器用に自分の粋なドレスを作っていた事実と結びつけている。が、これは無理があるように思われる。当時針子は貧困な女性の仕事で、家政婦、洗濯女、住み込み料理人と同じレベルだったからだ。それで金持ちになるような職種ではなかった。

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Pearl de Vere
全盛期のベラ、撮られた年月は不明

彼女がクリップル・クリークにやってきた時、30歳の坂を越していたと思われるが、すでに相当の資金を持っていた。彼女が購入したのは洒落た比較的小さな家で、この鉱山町で有名なマイヤーズ・アベニューにあった。

彼女は赤毛で引き締まった顔の相当な美形だった。だがそれよりも何よりも、彼女が連れてきた娘らは揃いも揃って大変な容姿端麗、セクシーでこの鉱山町に旋風を巻き起した。都会の紳士どもは純情な田舎娘に惹かれるように、田舎、辺境の町では洗練され、都会的な雰囲気を身にまとった女性が人気だった。

ベラは見事な黒馬に引かせたワゴンで自身、ハイファッションに身を包み、クリップル・クリークのメインストリート、べネット・アベニューを乗り回した。彼女自身、他人に見られることが好きだという面もあろうが、それは大いに自分の店、娼館の宣伝行為だったように思える。娘たちにも都会的でかつセクシーなドレスを着せ、ベネット・アベニューを闊歩させ、ウインドーショッピングをさせている。

ベラが娼館を開いた時、この鉱山町は人口約5万人で、サルーンバーが150軒、そのうち娼婦税を払っている女性が300人、娼婦の館は20軒もあった。他にカジノが12軒、49軒の雑貨屋、レストランは25軒、教会も34軒あった。まさにブームタウンここにありの様相だった。新興ベラは、他の同業者を尻目に大成功を治めている。それには、クオリティーとサービス、そして宣伝が大切と言うわけだ。

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この写真の方が、ベラの性格を捉えていると思われる
着飾ってはいるものの、静かな一方で強い意思が表情に出ている

いくら、荒っぽい鉱山町のこととはいえ、聖書に凝り固まった住人も多く、華麗に着飾った娼婦たちが我が物顔で白昼メインストリートを歩き回るのを、幼い自分の子が目にすることを忌み嫌った。娼婦らと肩を並べて買い物できるか!と言うわけだ。

苦情が町当局やシェリフに持ち込まれた。娼婦から毎月6ドルの鑑札料(娼館のマダムからは60ドル)を徴収している町としては、街中を歩くな! とも言えず、苦肉の策として、ベネット・アベニューを闊歩できる時間帯と一般市民が子連れでもショッピングできる時間帯を分けている。

鑑札料という高い税金を取っている以上、娼婦らを無視できなかったし、加えてシェリフは住民の選挙で選ばれるから、住民の意向も無視するわけにいかない事情があったのだろう。娼館のある通り、マイヤーズ・アベニューを児童立ち入り禁止地区にしていたりしている。

そんなことをベラは一向に気にもせず、漆黒の馬に引かせた軽快な馬車、キャリージで、町中はもとより、鉱山キャンプまで巡回するように乗り回した。


娼婦業、娼館ではどのくらい料金?を取っていたのだろうか、興味が沸くところだが、ベラは裕福層だけを相手にしており、鉱夫やアウトローなどをターゲットにしていなかったとはいえ、一晩、見目麗しき女性と過ごすのに250ドルもの正札が付いていたと言うのだ。

それはとんでもない金額で、当時の鉱夫たちは週給3ドルも稼げれば良い方だったから、鉱夫たちはどう足掻いてもベラの店に足を踏み入れることなど敵わぬ夢だった。坑夫の1年分の収入に当たる金額を夢の一夜を過ごすために叩けるわけがない。逆に、そんな大金を払える金持ち、成金がこの鉱山町に幾人もいた事実があることになる。

男どもの欲望の裏の奥の奥まで知り尽くしていたはずのベラは、地元で製材工場を持っていた男、CBフリン(C.B.Flynn)と結婚している。製材所はブームタウンにあって、安定した良い仕事だとはいえ、娼館経営の方がはるかに儲かる仕事だった。ベラに恋心が湧き上がったのだろうか。クリップル・クリークに来てからベラは客を取らなかった…と、そんなことまで西部好き者史家は述べている。

ところが、結婚して間もなくクリップル・クリークは町全体を焼き尽くす大火に見舞われ、メインストリートも娼館のあるマイヤーズ・アベニューも、そしてフリンの製材所も灰になった。

フリンはメキシコに良い仕事を見つけ、クリップル・クリークを去っている。ベラとの結婚は2年と続かなかったことになる。一方、ベラはクリップル・クリークに踏み留まり、いち早く、娼館再建に乗り出している。そこがベラの頭抜けたところで、館は煉瓦造りで内装もパリから壁紙を取り寄せるは、家具調度品もヴィクトリア調の極を行く凝った作りのモノばかりで、シャンデリア、加えてこんな鉱山町の人が見たことがない南国の花々で飾られ、これまで以上に高級感を漂わせていた。

こんなことが言えるのは、現在、その館が博物館になり、ベラが創った当時そのままと博物館のガイドは言うのだが…見ることができるからだ。

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博物館になったベラの娼館
“古き開拓農家(The Old Homestead)”

新しいベラの娼館は“古き開拓農家(The Old Homestead)”と名付けられた。その1897年6月4日に行われたパーティーの絢爛たる豪華さは語りグサになった。トッピもない派手さで、飲み物はフランスのシャンパン、そしてロシアのキャビア、それに加えてデンバーから本格的なオーケストラまで呼び寄せた。一介の娼婦上がりがそこまでやるか、やれたのかと感嘆するばかりだ。

ところが、その翌日の1897年6月5日、ベラはモルヒネの過剰摂取で急死してしまったのだった。享年36歳とも38歳とも言われている。葬儀のパレードは、ベラにふさわしく白いバラに覆われた棺桶、楽隊付きで大火災の後、ようやく復興し始めたメインストリートを行進した。ベラのクリップル・クリークでの活躍は5年に満たなかった。


クリップル・クリークの鉱山は掘り尽くされ、町はゴーストタウンになりかかったが、観光地として町興しをしようと、古き良き西部を留める方針で動き出し、その中に廃坑ツアー、そしてベラの娼館が観光資源として脚光を浴び始めたのだった。

娼館“古き開拓農家(The Old Homestead)”は人手に渡り、1917年まで娼館として営業していたが、その後旅籠になり、最終的には個人の邸宅になっていたのを1958年になって博物館にしたのだった。

いくら豪華な造りだとはいえ、元の売春宿が観光名所になる、するのはアメリカ的というか、町興しの苦肉の策が忍ばれる。

 

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パール・デ・ベラの墓は、マウント・ピスガー墓地にある

-…つづく

 


第22回:酒場サルーンと女性たち その22 ■デッドウッドの娼婦、ドーラ・ドフラン

 

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佐野 草介
(さの そうすけ)
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海から陸(おか)にあがり、コロラドロッキーも山間の田舎町に移り棲み、中西部をキャンプしながら山に登り、歩き回る生活をしています。

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