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■ドレの『狂乱のオルランド』~物語の宝庫、あらゆる騎士物語の源


更新日2024/06/13 




ドレの『狂乱のオルランド』 


サラセンとキリスト教徒軍騎士たちが入り乱れ
絶世の美女、麗しのアンジェリーカを巡って繰り広げる
イタリアルネサンス文学を代表する大冒険ロマンを
ギュスターヴ・ドレの絵と共に楽しむ


谷口 江里也 文
ルドヴィコ・アリオスト 原作
ギュスターヴ・ドレ 絵


 

第 9 歌  旅に出たオルランドの冒険


第 2 話:オリンピア姫の苦難


さて前回は、アンジェリーカを探す旅に出たオルランドが、ライン川のほとりで出会った乙女に導かれて川を渡り海に出て、ようやく嵐が静まって寄せた岸辺に真っ白なヒゲを長く伸ばした翁が、船から降りたオルランドに歩み寄ってきたところまでお話しいたしました。そして翁はこう言った。

  勇気ある騎士様、我らが愛らしき姫のために
  よくぞおいでいただきました。
  私は姫の父君のその前の王の時代から王家に仕える者。
  我が国を襲った存亡の危機と
  その渦中で悲しみに沈んでおられる姫を
  是非ともお救い頂きとう存じます。


比類なき騎士オルランドは、もちろん大きくうなづくと、翁の後に続いて前に進んだ。しばらく行くと、歩む翁の背中越しに、古めかしい館が見えてきた。さらに進むと、館の扉が開き、黒い衣装に身を包み、黒いベールで顔を隠した一人の女性が静々と階段を降りてきた。女性はオルランドの前に立つと、ゆっくりとベールをとって素顔を見せた。その美しいこと美しいこと。しばし見とれて立ちすくんでいるオルランドに喪服姿の美しい女性が言った。


9-2-01


  私はこの国を治めるオランダ公の娘オリンピア。
  父の寵愛を受けて幸せに暮らしておりました。
  そんな私に、ある日さらなる幸せが訪れました。
  遠い国から
  サラセン軍との戦いに参加する途中で
  国に立ち寄った青年騎士
  ビレーノ様とお会いし
  たちまち恋に落ちたからでございます。
  ところがそのことが国に大きな災いを
  もたらすことになってしまったのでございます。


詳しく聞けば、礼儀正しくもハンサムな青年騎士と愛する一人娘との恋をオランダ公も大いに喜び、ビレーノがサラセンとの戦いから帰ってきたらすぐに婚礼を上げようということになっていたという。ところが横暴残虐なことで知られる隣の国の王チモスコが、この恋に横槍を入れ、無理難題を言ってきたのだった。

オリンピア姫の美しさは、野蛮な武装国家フリジアにも伝わっていたため、残虐王チモスコは、その噂の娘と自分の息子を結婚させようと勝手に考え、その旨をオランダ公国に伝えてきたのだった。

娘が恋をしているのを知っているオランダ公が、その申し出を断ったから、さあ大変。怒り狂ったチモスコは、すぐに姫を差し出せ、さもなくば国を攻め滅ぼすぞと脅しをかけてきたのだった。


9-2-02


自分のために国が滅ぼされるようなことがあってはならないけれど、結婚を誓ったビレーノ様を裏切ることなどできるはずもありません。いっそ私を殺してくださいとオランダ公にすがったオリンピア姫でしたが、可愛い娘に手をかけることなどできるはずもなく、娘には結婚を誓った相手がおりますゆえ、とチモスコに重ねて返事を返したところ、激怒したチモスコは自らが先頭に立ってオランダ公国に攻め込んできたのでした。

あっという間にオランダ公の国を占領した残忍王チモスコは、オリンピア姫の二人の兄と、さらにはオランダ公までも、自らが持つ鉄の筒に火薬を仕込み、火縄でそれを爆発させて雷のような轟音とともに大きな鉛の弾を発射する、チモスコ以外には誰も持っていない悪魔の武器で、あっという間に撃ち殺してしまったのだった。

その後もチモスコは、息子との結婚をしつこく迫り、主人を亡くしたオランダ公国の領民に対しても、姫を差し出せば軍を引く、さもなければ一人残らず皆殺しだと触れ回って脅したため、とうとう領民は姫を捕まえ、隣国へと送り出す馬車に乗せたのだった。



事ここに至ってはとオリンピア姫も覚悟を決め、忠実な従者を二人伴って大人しく隣国に向かい、チモスコに面会するや、民の命を救うためなら私は喜んで王子様の妃になりますと嘘をつき、今夜にでも王子のものにと、自ら進んで王子の寝室に入ったのでした。


9-2-03


しかし、もちろんそれはオリンピアの策略で、王子が眠ったのを見計らい、連れてきた従者の一人を招き入れ、従者が斧で王子の命を絶ったのだった。

さあ大変、こんなことをしてしまったオリンピア姫がどうなるかは、第9歌、第3話にて。


…つづく

 

 

 back第9歌 旅に出たオルランドの冒険  第3話:残虐王チモスコに決闘を挑むオルランド

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谷口 江里也
(たにぐち・えりや)
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本や歌や建築、さらには自治体や企業のシンボリックプロジェクトなどの、広い意味での空間創造を仕事とする表現哲学詩人、ヴィジョンアーキテクト。
主な著作に『鏡の向こうのつづれ織り』『鳥たちの夜』『空間構想事始』『天才たちのスペイン』、主な建築作品に『東京銀座資生堂ビル』『ラゾーナ川崎プラザ』『レストランikra』などがある。
なお音楽作品として、シンガーソングライター音羽信の作品として、アルバム『わすれがたみ』『OTOWA SHIN 2』などがある。

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バックナンバー
第1歌  初めて歌われるオルランドの物語
 
第1話:アンジェリーカの逃亡
 第2話:騎士アルガリアの亡霊
 第3話:アンジェリーカとリナルド
第2歌  騎士たちの大冒険
 第1話:リナルドの大冒険
 
第2話:乙女騎士ブラダマンテ
 
第3話:天馬を操る騎士
第3歌 乙女騎士ブラダマンテの運命
 第1話:不思議な洞窟
 
第2話:魔法の知恵の書に記された運命
第4歌 魔法の指輪
 
第1話:天馬の騎士の正体
 
第2話:魔城の秘密
 
第3話:嵐に会ったルッジェロのその後
 第4話:ギネヴィア姫の危機
第5歌 邪悪な公爵
 第1話:悲鳴の主

 第2話:陰謀の顛末
第6歌 不思議な冒険
 第1話:謎の騎士の正体
 
第2話:不思議な島
 第3話:この世の天国
第7歌 邪悪な魔女アルチーナ
 第1話:妖艶な美女
 第2話:魔術にかかったルッジェロ
 第3話:正気に戻るルッジェロ
第8歌 騎士たちとアンジェリーナのその後 
 第1話:正気に戻ったルッジェロ
 
第2話:その後のリナルドとアンジェリーカ
 第3話:老呪術師の淫らな欲望
 第4話:不思議な島の話
第9歌 旅に出たオルランドの冒険
 第1話:アンジェリーカの夢を見て城を出たオルランド
 

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