サラセンとキリスト教徒軍騎士たちが入り乱れ
絶世の美女、麗しのアンジェリーカを巡って繰り広げる
イタリアルネサンス文学を代表する大冒険ロマンを
ギュスターヴ・ドレの絵と共に楽しむ
谷口 江里也 文
ルドヴィコ・アリオスト 原作
ギュスターヴ・ドレ 絵
第 9 歌 旅に出たオルランドの冒険
第 3 話:残虐王チモスコに決闘を挑むオルランド
さて前回は、残虐王チモスコの醜い王子との結婚を迫られたオリンピア姫が、父親のオランダ公がチモスコに攻め落とされるのだけは避けようと、自ら結婚を受け入れるふりをして、チモスコの王子の寝室で王子を待ち受け、夜中に従者を導き入れて王子を殺害したところまでお話しいたしました。
もちろんオリンピア姫のしでかしたことは、朝になれば明らか。オリンピアは、もう一人の従者の助けを借りてチモスコの居城から脱出して姿を隠したのだった。
![9-3-01](images/9-3-01_s.jpg)
事態を知ったチモスコは烈火のごとく怒り、以前にも増して公国の民を苦しめ始めた。そしてそのことを風の便りに知ったビレーノは、すぐさま配下の兵士たちとともに船に乗って民とオリンピアを救うべくオランダ公国に向かったのだった。
しかし、軍事に長けたチモスコ軍に、少数の部隊が敵うはずがない。ビレーノの部下たちはたちまち打ち負かされ彼も捕虜となってしまった。チモスコがビレーノを殺さなかった理由はただ一つ。彼を捕らえておけば、息子をだまし討ちにした憎っくきオリンピアを捕まえるに役立つだろうと思ったからにほかならない。そうしてチモスコは、もしオリンピアが自首するならば、その勇気に免じてビレーノを釈放するというお触れを出した。
オリンピアは愛する人を救うためなら自らの命を捨てても悔いはないとは思ったものの、相手は極悪非道のチモスコのこと、オリンピアが自ら姿を現せば、お触れのことなど平気で無視して、二人の命を奪うか、さらに酷いことだってしかねません。
そんなわけでオリンピアたちは方々に手配して、城へ乗り込んで囚われの身であるビレーノを救い出してくれる騎士を探していたのだった。
よし引き受けたと言ってくれた騎士はこれまでに何人かはいたものの、チモスコはとんでもない武器を持っていて、それは鋼の鎧さえも撃ち抜く弾を吐き出す鉄の筒で、どんなものでも木っ端微塵にするほどの破壊力を持つ武器。そのことを聞いた途端、騎士たちはみんな恐れおののき、それは騎士が戦う相手ではないと言って姿を消してしまったとのこと。
それを聞いた比類なき勇者オルランドは、誰もやらないのであればその仕事、拙者がやり遂げて見せようと胸を叩いて請け負った。
早速出発したオルランドは、チモスコの居城に着くと、門兵に向かって大声でこう言った。
![9-3-02](images/9-3-02.jpg)
拙者はオルランド、パラディンの騎士。
城主チモスコに伝えよ。
比類なき勇者がオリンピア姫のために
城主との一対一の決闘を申し込む。
拙者が負ければ姫の身柄は汝に渡そう。
しかし拙者が勝てば
そこに捕らわれの身となっている
ビレーノを返していただこう。
さあ騎士の勝負を正々堂々としようではないか。
しかし、飛び道具で相手を問答無用で殺害してきた卑劣漢チモスコが、そんな勝負を受けるはずがない。チモスコが考えたのは、息子を殺した憎っくきオリンピアが自らの身柄を委ねるほどの騎士ならば、そいつを捕まえればオリンピアもいずれ姿を表すだろうという、さらに姑息な算段。
そこで30人もの武装した兵士を城の別の出口からこっそりと出し、ここで勝負をと、槍を構えて城からやや離れた丘の上で待つオルランドの背後に回らせ、手はずが整ったと見るやチモスコは、武装した30騎を自らが従えて城門を出たが、目的はオルランドの生け捕りだったため、鉄の火筒は持たなかった。
![9-3-03](images/9-3-03.jpg)
そうして前と後ろから、一斉にかかればどんな相手でも敵うはずがないと思ったのだったが、相手は常識をはるかに超えた比類なき勇者オルランド。飛びかかった兵士を次から次に槍で刺し、あっという間に串刺し状態にしてしまった。
![9-3-04](images/9-3-04_s.jpg)
そのあまりの強さに仰天したチモスコは、慌てて火筒を取りに城へと引き返した。
それを追ってオルランド、逃してなるものかと後を追ったが、さすが城主の馬の逃げ足は早く、あっという間に姿を消した。その様子を城壁から見ていた門兵たちは、慌てて火筒を取りに行った。さてオルランドの運命やいかに。
この続きは、第9歌、第4話にて。
![9-3-05](images/9-3-05.jpg)
-…つづく