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■亜米利加よもやま通信 ~コロラドロッキーの山裾の町から
 

第798回:日米のお葬式事情あれこれ

更新日2023/04/13


ここ数年、私の母親をはじめ親類の叔父、叔母、従姉妹が相次いで亡くなり、お葬式ラッシュの様相を呈しています。私たちが歳を重ねているのと同様に、私の両親の世代が続々と鬼籍に入る時代になったのでしょう。先々週も父のいるカンサスシティーに帰っていた間に、親友の兄がなくなり、一日滞在予定を伸ばして葬儀に列席しました。
 
アメリカのお葬式は、よく映画で観るように教会の祭壇の前に棺桶を置き、参列者がそこに花を一本づつ捧げ、お別れをし、またアメリカ人はどこかの教会に属していることが多いので、その教会の牧師さん、あるいは神父さんが亡くなった人の人格を讃え(本当のところ、亡くなった人を牧師さんがほとんど全く知らなくても…)神のみ元、天国で平穏に過ごされますようにとありきたりの説教をします。

それから、親族だけのことが多いのですが、車を連ねて墓地に向かい、事前に手配し、墓穴を掘ってあるところに棺桶を降ろします。その時も棺桶の上に花を投げ入れ、また親族が小さなシャベルで土をかけます。最後のお別れというわけです。それが私のお爺さん、お婆さんの時代の典型的な葬儀でした。

ところが、今日では、このような葬儀の方が珍しくなり、メモリアルサービスを死後何日も経ってから、普通2、3週間も、時には天候の良くなるまで、何ヵ月も経てから行うことが当たり前になってきました。一つには土葬が少なくなり、火葬し、乾燥した骨になって保存が無限に効くようになったからでしょう。

基本的に、日本のように通夜があり、翌日はお葬式、納骨は49日後というパターン化された様式はありません。

メモリアルサービスは参列者が予定を立てやすいように、また遠くから来る人たちのため、通常、土曜日に行われます(教会は日曜日、通常のサービスがあるので塞がっているということもあるでしょうけど…)。私の従姉妹、それに彼女の息子のメモリアルサービスは、大きなホールを借り、そこで行われました。従姉妹は広く社会運動をしていて知り合いも多かったし、また数ヵ月前に亡くなった彼女の息子さんは中小企業を経営していたので、たくさんの参列者を見込んでのことでしょう。

一つの特徴的パターンになっているのは、スライドショーです。参列者が集まり始め席に着くまでの長い時間、亡くなった人が生まれた時から、子供の時、青春時代、結婚と歩んできた人生をスライドで大写しにして観せてくれるのです。今日、アメリカのどんな小さな教会でも上げ下ろし、あるいは巻き上げ式の大型スクリーンとプロジェクターを備えています。ヨーロッパの古い教会や日本のお寺では考えられないことですが…。

そしてサービスです。ここでも神父さん、牧師さんは、最初と最後に至極短い挨拶程度に亡くなった人を紹介し、讃えますが、その後約2時間ほどは、亡くなった人の親族、友人が“秘話”“逸話”を披露し、笑わせ、時に泣かせます。故人が特別に興味を持っていたとは思えないような音楽、ピアノやオルガンの演奏、独唱、合唱が挟まれます。バグパイプやフォーク調の歌がエレキギターで演奏されたこともあります。日本で仏壇に置いてある、あの、よく響くチーンと鳴る鐘の巨大なのを持ち出し、残響が残っている間、黙祷し、死者の冥福を祈る…という凝った演出をするのに出くわしたこともあります。

ウチのダンナさん、どんなことでも楽しむ性格の持ち主ですが、「オイ、これじゃ素人ノド自慢、学芸会じゃないか?」と呆れながらも、「日本で誰も意味の分からない、坊さんのお経を足を痺れ切らして聴くより100倍も良いけどな~」と、御託を述べていましたが…。

一度だけ、日本の葬儀を体験したことがあります。
義理のお兄さんが亡くなった時です。葬儀屋さんが遺族の意見を聞き、予算に合わせてすべてを取り仕切っているのでしょう、葬儀屋さん、いくつも部屋のある大きな建物(斎場と呼ぶのかしら)でしたが、その一つに祭壇が築かれ、故人を花で飾り、その仏前でお通夜が始まります。

その時の豪勢な食べ物、お酒、ビールなど飲み放題、そして放談し、まるで忘年会と変わらない宴会なのに呆れ返ってしまいました。マー、ウチのダンナさんの家系は皆さん陽性なのですが…。“しめやかなお葬式”というイメージとは凡そかけ離れたものでした。

そして翌日、火葬場に行きました。ここで、大型オーブン、釜の前で故人と最後のお別れをし、焼き上がりを待つのですが、大ホール、個々の待合室のような部屋がいくつもあり、そこでまた、飲み食いが始まったのには更にびっくりしました。夫を亡くした義理のお姉さんの強い意志で、すべて無宗教で行われ、お坊さんはどこにも登場しませんでした。

実は…、というほどのことでもないのですが、ダンナさんより良く日本の習慣、伝統を知っている?私は、近くの大丸デパートに駆け込み、葬儀用に黒の丸首シャツと黒に近い濃紺の上着を買ってきたのです。いつもの無頓着な服装では、ジーパンにTシャツではとても葬儀に参列できるもんじゃないと判断したのです。

お通夜の時もそうでしたが、火葬場に来ていた大人の100%がキチンと黒の喪服、女性も黒のドレスか喪服着物で、黒の喪服を着ていないのは、小学校低学年の野球帽を被った子供とウチのダンナさんだけでした。一生の間に何度お葬式に行くのでしょうか? そのためだけの服、着物を皆さんが必ず持っていることにたまげてしまいました。

それに比べると、アメリカのメモリアルサービスの方は、黒の上下背広姿の人さえ全くいません。第一、黒の喪服があることすら知らないでしょう。一応、汚れた作業服、汗臭いシャツはちゃんと着替えて小綺麗な服装であればそれでOKです。

この数年で、6、7回お葬式に行きましたが、皆さん普段着のままで、ジーパン(汚れていない!)にカッターシャツ姿が幾人もいます。第一、牧師さん、親族も上下揃いの背広姿は珍しい方で、良くて上着(ジャケット)にワイシャツ、ネクタイは色とりどりを絞めています。

ウチのダンナさんがご幼少の頃、今のようなお仕着せ、ユニホーム文化ではなかったと言っています。もっとも、食べることが大変な時代で、儀式用の服装を揃えるゆとりなどなかったのかもしれませんが…。
 
端的に日本のユニホーム好きとアメリカの実用一点張りの服装がお葬式に現れているのでしょうね。サラリーマンのダークスーツも一種のユニホームですし、成人式、卒業式の振袖訪問着、袴も推し着せの制服ですが…。

ダンナさん、「皆と同じような服装をしていなければ不安になるような、どこかに所属しているアカシとしてユニホームを着る個性のない文化はオレ向きでないな~」とポツリとこぼしていました。そりゃそうです。50年以上日本を離れていれば、もう日本での社会復帰は無理になって当然ですよね。

 

 

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Grace Joy
(グレース・ジョイ)
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中西部の田舎で生まれ育ったせいでょうか、今でも波打つ小麦畑や地平線まで広がる牧草畑を見ると鳥肌が立つほど感動します。

現在、コロラド州の田舎町の大学で言語学を教えています。専門の言語学の課程で敬語、擬音語を通じて日本語の面白さを知りました。

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