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■亜米利加よもやま通信 ~コロラドロッキーの山裾の町から
 

第830回:現代若者気質とフリーセックス

更新日2023/12/07


もう大学の教職を引退してから4年になります。大学での仕事、教えること、教室内で生徒さんたちと会話し、やりとりしていたことを懐かしく思いますが、歳を取り、大学の老齢グループ、長老格になってきてからは、教室で教える以外の仕事が増え、いわば大学の政治、行政というのかしら、それに関わらなくてはならず、そっちの方に時間を多く取られるようになってしまいました。当然、人間関係が絡んできます。これがとても苦痛なのでした。

今では学校に通っていたことが夢のような、または遠い昔のことのように思えます。ついでに言えば、もう一度教職に戻らなくて済むことに感謝しています。

と言っても、退職する前にどういうわけか“名誉教授”になり、そんな余計な肩書きなど全くいらない、何のためにそんな仰々しいタイトルなんかがあるのだ、と辞退しようと思っていましたが、そのタイトルがあるおかげで、引退後も大学の図書館が自由に使え、しかも本の貸し出し冊数は無制限で、期間も6ヵ月、学内のコンサートなども特別割引ナドナド役得があることを知り、マー、いいかとその証書カードを貰っておいたのです。おかげで週一回、住んでいる高原台地の森の家から、インターネットを使うためだけに谷間の大学町に降り、図書館を我が物顔に使うことができます。私たちが住んでいるところでは、インターネットどころか、FM放送すら受信できないので、WIFIが使える図書館は非常に重宝しています。

私たちが週一で通っている大学の図書館の入口に、これも週一で発行されている大学の新聞が積まれています。それを取り、目を通します。この新聞は大学のジャーナリズム学科と生徒会が主体になって発行しています。学内のニュース、行事の広告、報告、それに大学のスポーツチームの活躍が主な記事で、カラー写真満載の大判8ページのものです。

いつも読み流しているだけなのですが、11月16日付の“Opinions”(論評とまでいかない、私の意見の欄)に“hooking up, one night stand”とあり(奇妙に難しい単語をたくさん知っているウチのダンナさんでも、学生さんにとって、こんな一般的な言葉を、「これ具体的にどういうことだ?」と意味を掴んでいないようでした)、これはバーやパーティーで知り合い、その夜限りのセックスをすることを意味します。ですから、愛情感覚抜きで、スポーツ的な、ゲーム的セックスを楽しむことになります。

一応、キャンパス内は禁煙、禁酒です。アメリカの大半の大学キャンパスはその内側に大きな学生寮がいくつかありますから、当然、寮内では禁酒、禁煙になります。ですが、17-18歳で親元を離れ、親の目を気にしなくて済む生活を始めるとなると、お酒、マリファナに走り、存分にセックスに励むことになります。いくらなんでも、大学の寮内でのセックスまで禁止できません。

キャンパス内で禁酒、禁煙だとは言っても、100%の学生がそれを守るわけではありませんし、キャンパスを一歩離れると、学生さん相手のバー、クラブがたくさんありますから、そこに集い、飲み、出会い、一夜限りのセックスに走ることになります。
 
こんな地方大学ですら、72%の学生は、4年間の学生生活で“hooking up, one night stand”を体験している、したがって、これは一つの学生社会の文化と呼ぶべき生態だと、可愛らしい新聞部のライターが書いています。写真入り、記名の記事です。あっけらかんと、彼女自身パーティーで“hooking up”を何度も体験したと書いているのです。

パーティーは大学の生活の大切な一部だし、“hooking up”をすることにより、ストレスの解消になる、また相手とやりとりするスキルを身につけることができる、それに自身のアルコールの限度を知ることができると、妊娠と性病を注意しながら存分に経験を積むべきだとの論評を公表しているのです。

実際に“hooking up”を体験することは一つですが、それをこうしてあっけらかん、公然と書き、ということは学生さん同士では当たり前のことのように、「先週末のセックスは良かった、あまりよくなかった」とか話しているのでしょうね。なんか、至極当たり前のこと、フットボールの試合や映画の良し悪しを語っているようなのです。

これが都会に近い有名、高名な大学だと、この“hooking up”文化を堪能する学生さんの比率はグンと跳ね上がるのでしょうね。
 
学生新聞のライターの可愛らしい女学生は、優れた避妊薬を使い、おまけに経口堕胎薬が簡単に買えるので、あとは男性にコンドームを使ってもらうだけでセックスを十分に堪能できるというのです。 
 
しかし、いつか本当に好きな人が現れ、結婚する時、“hooking up”文化にたっぷり染まっていた過去が障害にならないものなのでしょうか。彼女たち、彼たちは、あっさり、それとこれとは全く別のことだと割り切っているようですが、それほど、割り切れるものなのかしらと、古いタイプだと言われそうですが、私などは愛情のないセックスは何かしら引っ掛かるものが残ります。
 
この記事を読んだウチのダンナさんは、「アメリカの大学生活はスゴイな~。俺もアメリカの大学で経験を積むべきだったなぁ」とゴタクを並べています。そして、未だにお見合い文化が幅を利かせている日本で、「アナタの趣味は?」と訊かれ、「観劇、スポーツ、読書、それに“hooking up”セックスです」とは、いくら正直な人でも言えないと思うのです。

私たちは多かれ少なかれ、自分の過去を消すことができず、それを引きずって生きているのですから…。

 

 

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Grace Joy
(グレース・ジョイ)
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中西部の田舎で生まれ育ったせいでょうか、今でも波打つ小麦畑や地平線まで広がる牧草畑を見ると鳥肌が立つほど感動します。

現在、コロラド州の田舎町の大学で言語学を教えています。専門の言語学の課程で敬語、擬音語を通じて日本語の面白さを知りました。

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