第831回:アメリカの医療は中央アフリカ諸国並み?
またまた、アメリカの医療システムのこと、かなり愚痴っぽくなってしまいますが、お付き合いください。
毎回、選挙の焦点の一つ、しかも大きな論点になっているのは“堕胎”です。大雑把に言えば、“堕胎”がアメリカの世論を二つに分け、民主党、共和党の獲得票にジカに繋がっています。両派ともにデモ行進をし、マスコミの注目を集め、それを両政党がそれぞれ支持し、来年に控えた大統領選挙の大勢を決めるのは“堕胎”問題と言われるほどになってきています。
その割に、安心して赤ちゃんを産み、育てることができる医療、社会保障のことに誰も触れません。アメリカで出産するのは莫大な費用がかかります。日本のように、産後の日だちが大切だと母親の健康を気遣うこともなく、大半は赤ちゃんを産んだ翌日に退院させられます。出産用の保険もあることはあるのですが、保険料が高く、そんな保険を掛けている若いカップルはまずいません。
どうして出産にそれほどお金が掛かるかといえば、まず、産院が極端に少なく、産婦人科のお医者さんになりたがる人が少ないからです。そして、アメリカ人の裁判好きが尾を引き、赤ちゃんに何かのチョットした障害があったりすると、即裁判に持っていき、莫大な裁判費用、罰金を課せられるからです。それに対抗するために、病院、お医者さんも保険を掛けているのですが、その保険料がとても高く、そんな高い保険料を払ってまで赤ちゃんを取り上げることはできない…と、大きな病院でも婦人科の産科を閉鎖しています。
そんな状態ですから、何の経済的な不安もなく、安心して赤ちゃんを産み、そして育てることができるように国が保障すれば、“堕胎”の問題も半減するでしょう。
ユニセフ(UNICEF:2020年の統計)では、乳幼児の死亡率は、対象になった195ヵ国のうちで、医療先進国であるはずのアメリカは50番目なのです。ちなみに、最悪の国はシエラ・レオン、中央アフリカ共和国、ソマリアなどで、1,000人の新生児に対し70~80人もが死んでいます。
死亡率の最も少ない国はアイスランドで1.54人、それに続いて極小国家のサンマリノ、エストニアが続きますが、北欧の国々に混じって日本は1.82人で第6位に位置付けられています。さてはてアメリカは、日本の3倍以上の5.44人赤ん坊が死に、ランキングでいくと、なんと50位というのですから、呆れてしまいます。
それも州別にかなりはっきりした違いがあり、南部のルイジアナ州、ミシシッピー州、アーカンソー州、アラバマ州などはエル・サルバドール、トンガ、リビアと同程度の死亡率なのです。これが北部のオレゴン州、マサチュセッツ州になると半減するのですが、この地域差は人種、黒人、インディアンが多く住んでいるかどうかが分かれ目になっていることははっきりしています。
例えば、黒人の赤ちゃんの死亡率は白人の3倍にもなります。それは人種差別と言い切っても良いと思います。貧乏な黒人や原住インディアンに対する病院内での対処の仕方が白人の妊産婦に対するものとまるで違うと、黒人の妊産婦だけでなく看護婦さんからも指摘されているくらいです。
出産は一つの結果ですが、出産に至るまでの妊産婦のケアが、中産階級の白人とどん底クラスの黒人とではまるで違います。黒人に若年妊娠、出産が多いのは事実ですが、死産、乳幼児の死の80%は予防できる、避けられるものだと言われています。
医療技術で世界のトップを行くアメリカの医療制度は後進国並みなのです。アメリカで安心して子供を産み、健康に育てていくには、毎月高い保険料を払って素晴らしい健康保険をかけるか、どんな事態になってもポンと現金で払えるような大金持ちでなければなりません。
-…つづく
第832回:ギャングとマフィア、そして集団万引き
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