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■亜米利加よもやま通信 ~コロラドロッキーの山裾の町から

第499回:通行権と既得権

更新日2017/02/09



私たちが住んでいる高原台地は、国立公園より小規模なコロラド国立モニュメントと呼ばれている峡谷の上にあります。そこを毎日45分ほどかけて下の町にある大学へ通っているのですが、アメリカ国立公園の地域を通過するのですから、入園料、一回、車一台12ドル払うのがタテマエです。

ですが、この高原台地に住む人は特別扱いで、入口のゲイトで、「上に住んでいます」と言えばタダになります。実際に高原に住んでいるかどうかチェックされたり、証書を携帯するなどという面倒はありません。信頼関係と言ってよいでしょうか。もっとも、パークレンジャーたちも私たちの顔を覚えていますから、ニコリと笑って、手を振り、挨拶してくれます。

ウチのダンナさんは後期高齢者(超かな)ですから、アメリカの国立公園、どこに行ってもタダで入場できる老人特別パスを持ってはいますが、そんなカード証書を見せる必要すらありません。

コロラド国立モニュメントのレンジャー(自然保護官)と高原台地の住人の集会がありました。 彼らの説明によると、私たちが使っている東ゲイト(西と東の二つ入口があり、西の方から入る観光客の方がはるかに多く、西口には立派なビジターセンターがあります。東は云わば裏口です)で、それでも、そこを通った車は昨年25万台を越したそうです。

主な議題は、どうやったら夏の観光シーズンの混む季節に、スムーズに東ゲイトを通過できるようにするかでした。言ってみれば、国立公園側の好意溢れる議題なのです。

混雑と言ったところで、5、6台車両が並び、その内の2、3台が観光客だとすると、箱のような小屋にいるレンジャーは料金を徴収し、領収ステッカーと案内パンフレットを手渡し、イロイロ説明をし、親切に対応しますので、一車線しかない関所で少々待たされる程度です。 それでさえ15分以上と言うことはないのですが、通勤している我々にとってはとてもイライラさせられることは確かです。

ダンナさんの提案は、入口にもう一つ、高原台地住人用のレーンを作ったらどうか…というものでした。レンジャーはそうなると、普通の観光客もお金を払わなくて済むそっちのレーンを通るのではないか…と反論してきました。そのミーティングで結論を出すというスジの集会ではなく、公園側が上の住人の意見を聞くという、半ば親睦の集いでした。

考えてみるまでもないことですが、この高原台地に住んでいる人たち、約200軒(常住組は70軒ほどで、あとは夏の避暑用の別荘です)は、この国立モニュメントから大きな恩恵を受けているのです。大学の同僚の先生らに私たちは毎日タダで国立モニュメントの中を通過していると言うと、皆一様に驚き、「どうして? 私は(俺は)12ドルも取られているのに…」と言います。実にもっともなご意見です。道路の管理、除雪にもかなりの費用がかかっていることでしょう。

アメリカの法律で通行権とでも言うのから、他の人の所有地に囲まれた中島のような土地を持っている人は、自分の土地に行くために他の人の土地を通過してもよい、通行する権利があるという決まりがあります。周りの土地の所有者はそれを認めなければならないのです。

なるほど、私たちの住む高原台地は広大な牧草地、森林、荒地ですが、どこにも抜け出ることができないドンズマリの地域で、唯一のアクセスはコロラド国立モニュメントを通る道だったのです。と、過去形で書いたのは、実はもう一本、丘陵地帯に目を付けた開発業者が豪華な別荘地帯を造り、コロラド国立モニュメントを通らずに台地まで迂回する道路を作ったのです。ですが、この道路を通ると、走行距離が50%以上も長くなり、冬の除雪なども、すばやく対応しないので、この高原台地に住んでいる人たちはほとんど利用しません。

既得権というのは、政治を歪めるものだと、他人事としては分かっていたのですが、これがイザ自分のことになると、私を含めた高原台地の住人全員がこぞってコロラド国立モニュメントの通行権を守ろうとしているのです。

国立公園の管理局では、遠回りとはいえ、実際にもう一本の道路がある以上、上の住人が国立公園内を通らなければならない理由はない、と通行権を取りやめることができるのでしょうけど、既得権を振りかざした高原台地の住人、主に牧場主、そこで働く牧童と家族がタダで通過するのを黙って見ているほかないのでしょうね。

それにしても、我々高原台地の住人には通過させてもらっているという謙虚さがなく、通行権を当然のように振りかざし、要求ばかり押し付けているのを見るのはとても醜い光景でした。「日本ならそんなことないでしょう…ね」との私のつぶやきに、ウチの仙人、「オメー、日本は利権がらみがはびこり、とんでもなく醜いもんだぞ、一度利権を掴ませたら最後、決して手放そうとしないのは、日本もアメリカも同じだぞ」とノタマッテいました。

私が大学から帰る道すがら、ゴミ袋を下げたダンナさんに会いました。ハンターや観光客が車の窓からポイ捨てした空き缶やプラスティックのコップなどのゴミを拾っていたのです。ダンナさん、別に恥ずかしがることないはずですが、私に見られて妙にテレて、「毎日、散歩したり、自転車に乗っているところで汚いゴミなんか見たくないからな~。それにいつホームレスになってもいいようにアルミ缶集めのトレーニングをしているだけさ」とかテレ臭さそうに言っていました。

『星の王子さま』を書いたサン・テグジュペリは、砂漠が美しいのはそこに小さなオアシスがあり人間が生きているからだ…という意味のことを書いていましたが、コロラド国立モニュメントが人を感動させるのは、ウチのダンナさんみたいなゴミ拾いがいるからでしょう…。ウーム、この両者、かなり遠かったかな???

 

 

第500回:アメリカが誇れるもの、国立公園(National Park)

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Grace Joy
(グレース・ジョイ)
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中西部の田舎で生まれ育ったせいでょうか、今でも波打つ小麦畑や地平線まで広がる牧草畑を見ると鳥肌が立つほど感動します。

現在、コロラド州の田舎町の大学で言語学を教えています。専門の言語学の課程で敬語、擬音語を通じて日本語の面白さを知りました。

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