第832回:ギャングとマフィア、そして集団万引き
日本には世界的に有名になったヤクザという犯罪組織があり、社会学の立場からヤクザ学? ヤクザ研究? まで行われていますが、ここアメリカではマフィアが大きな組織を作り、FBIの必死の撲滅キャンペーンに抵抗し、独自の弁護士、経営コンサルタントを抱えてしぶとく生き続けています。ゴッドファーザー、コーザノエスロトラ、ソプラノの世界です。彼らは血の繋がりを重んじ、アメリカに遅れて入ってきた移民集団のシチリア人が大半です。他にもアイルランド系、ロシア系、最近ではコロンビア系のマフィアが勢力を増している……とマスコミにあります。
一方、アメリカでギャングと言いますと、まず黒人、ヒスパニックそれに下層階級の白人の若者が自由に買える銃火器を振りまわし、敵対グループと撃ち合ったり、商店、ブティックや貴金属店を集団で襲ったりするグループを意味します。マフィアよりこちらの若者ギャング団の方が一般市民にとって関わり合いが多く、恐ろしい集団なのです。と言っても、両方とも犯罪組織なのですが、マフィアは出身地、民族と血族で繋がった成人大人のグループで、ギャングは血の気の多い少年、青年のグループと使い分けています。
黒人問題はなんとなくアメリカ南部の州のものだと思っていたところ、暴動やギャング・グループの勢力争いで殺されている数は、ロスアンジェルス、シカゴ、ニューヨークなどの北部、西部の町の方がはるかに多いのに驚かされました。
ロスアンジェルスだけで、戦後から今までで15,000人もの人が若者ギャングに殺されているというのです。しかも、ロスアンジェルス全体のことではなく、南ロスアンジェルスの限られた地域でのことなのです。社会学者は、第二次大戦後、軍隊で平等に(比較的ですが)扱われてきた南部の黒人が目覚め、復員後、自由の地ロスアンジェルスに移り住んだことで、黒人人口が一挙に増え、そして、自由の地であるはずのロスアンジェルスにセグリゲーション、人種による分割居住の地であることを実感し始め、ロスアンジェルスに住んでいても、黒人は劣等種とみなされ、二級市民であり、将来性がないことを知り、若者はドラッグに走り、ギャング団を組織し、暴れ回るようになったと分析しています。
そこへ持ってきて、警察官の暴力的な取り調べが輪を掛けたのです。警察官も命懸けなのは分かります。でも、一応踏まなければならない法的な手順があるはずです。それを無視して、いきなり殴る、蹴る、そして少しでも抵抗、逃亡の動きがあると、ズドンと何発か撃ち込むのです。近年になってやっと各お巡りさんがボディーカメラを身に付け、逮捕の時の状況を録画することが義務づけられるようになりましたが、それ以前はまるでやりたい放題でした。
1965年の『ワッツ(Watts)の暴動』はそこを7日間も無政府状態に陥れました。その間、ワッツにある商店、レストラン、洗濯屋、コンビニ、スーパーなどは破壊的に荒らしまくられました。地元の警察だけでは抑えることができず、1,600人のナショナル・ガード(予備役軍隊)が出動し、やっと暴動が治ったのです。今、その時の記録を観ますと、まるで戦地の街のように、破壊され、盗まれ尽くされています。これがアメリカ国内での出来事とは信じられないくらいです。そしてこの掠奪、破壊は少数の若者だけでなく、多くの住民が関わっていたようなのです。
そして、有名な『ロドニー・キング事件』が起こります。数人の警察官が彼を取り囲み、警棒で殴る、蹴るの暴力をふるった現場が、当時出始めたスマホで見事に撮影され、マスコミに流れたのです。この事件なども、もし映像に撮られなかったら、闇に葬られていたことでしょう。この映像はテレビで全米に放映され、大事件となり、ブラックパワーが盛り上がるきっかけになりました。
ロスアンジェルスの黒人ギャンググループが暴れ始めたのは1984年頃からですが、それ以前にその下地というのか、要素は十分にあったのです。クリップス(Crips)とブラッズ(Bloods)という少年ギャング団が血で血を洗う殺し合いを展開し始めたのです。入れ墨だらけで金の鎖をいくつも首の周りに下げ、奇妙な手の指の動きを符牒にしている少年たちです。その頃からドラッグが出回り始め、それを売り捌くナワバリ抗争なのですが、もう全体、誰が誰のための復讐をしているのか、掴み切れないほどの無差別殺人を互いに展開したのです。
最近になって、この二つの若者ギャング団がやっと互いの抗争に将来性がないと気が付いたのかどうか、攻撃目標をショッピングモールや高級ブティック、貴金属店に切り替えたようです。そのやり方たるや、7~10人、もしくはそれ以上で、ワッとばかり店に乗り込み、金槌でショーウインドウ、ガラスケースなどを叩き割り、手当たり次第、宝石、時計、高級ブランドのバックや装飾品を持ってきたズタ袋に入れ、逃走するという荒っぽい手口なのです。その間、もちろん警報が鳴り、防犯カメラに映像が映されているのですが、彼らはそんなことに一顧だにせず、ドッドと押し寄せ、パッと引き上げているのです。おそらくその間15秒から30秒でしょうか。もちろん、逃亡用の車、盗難車を待機させてあり、文字通りアット言う間に一仕事を終えてしまうのです。このやり方の新しい言葉も生まれました。‘’Smash and Grab‘’(ぶち壊し、掴み取る)と呼んでいます。なんともピッタリの表現です。
こんな簡単で直接的な手口の犯罪に警察も半ばお手上げの状態です。そんな高級ブティックや貴金属店はガードマンも配置しているし、緊急時のアラームシステムもあり、シャッターがバチンと降りるシステムも設置されているのですが、そんな防犯小細工をギャング団は全く無視し、備え付けた防犯システムや対応の速さを売りにしている警備会社の何倍かのスピードで掠奪を終えるのです。
警察は貴金属を売買する古物商、海外に持ち出し売り捌くルートから犯人グループを割り出そうとしているようですが、あのグループだと検討はつけていても、まだ一人も捕まっていません。襲われた店のオーナーもなかば呆れ、諦めた表情で、店員に怪我がなかっただけでも良かったなどと言っています。
そんな犯行に触発されたのか、集団万引きが流行り出しました。アメリカの凡そどんな店でもなんらかの防犯、万引き対策をとっているのですが、それは誰か一人が血迷ってかどうか、店の品物をお金を支払わずにキャッシャーの前を通り、持ち逃げするようなケースだけに効果があるでしょうけど、集団で堂々と、ワサット来て、一度にドサッと持ち逃げされるのには全く役に立ちません。10人もの万引き犯が一斉に品物、衣料品などを抱えて走っている様は火事や洪水の避難訓練のようです。
“赤信号、みんなで渡れば怖くない”を地で行っているのです。
これからのクリスマス、年末にかけてこんな犯罪が多発するのでしょうね、と書いていたら、案の定、この集団万引き、強盗が流行り出し、ロスアンジェルスだけでなくニューヨーク、シカゴ、サンフランシスコ、ダラス、サンアントニオ、シアトルなどの大都市に飛び火しているとテレビのニュースで流れていました。
南ロスアンジェルスの少年ギャング団の集団万引き、ワッと襲い、パッと引き上げる方式、何時まで、どこまで広がるのかしら。
-…つづく
第833回:アルバイトと学校の先生
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