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■亜米利加よもやま通信 ~コロラドロッキーの山裾の町から
 

第800回:銃撃事件はなぜ止まらないのか?

更新日2023/04/27


もう毎週の行事になってしまったかのような学校銃撃事件は止まるところを知りません。実際に、今年に入ってからの銃撃事件は350件、そのうち学校銃撃事件は13件起こっていますから、週1回のペースで学校が襲われ、生徒さんが殺されています。アメリカの年中行事ならぬ、週間行事になってしまったかのようです。
 
3月27日にナッシュヴィル(テネシー州)のキリスト教、長老派の女子私立小中学コヴェナント・スクールに、軽機関銃2丁とピストルで武装した卒業生が襲い、9歳の生徒3名と先生、校長先生、小遣いさんの大人3人を撃ち殺しました。この学校は石造の立派な教会に付属している伝統ある学校で、200人の子供たちが在籍していました。アメリカの小中学校では珍しい制服、緑のタータンチェックのスカート、上も緑のジャケットを義務付けている学校です。
 
犯人はオードリー・ヘイルという性転換した元男、今は女になった28歳の同校の卒業生でした。オードリーは、アメリカでアサルト・ライフル(Assault Rifle)と呼ばれている主に市街戦用の短機関銃を2丁、1丁は腰ダメにして引き金に指をかけ、もう1丁はたすき掛けにして背中に回し、他にピストルを腰にし、何百発かの銃弾を身に付けていました。今までの調査では、銃、弾丸すべて合法的に購入していることが判っています。

オードリーさん、君?は武器を購入した時から学校を襲うつもりだったのでしょう。目立たないようにすべて何ヵ所に分けて、別々の銃砲店から買っています。
 
学校内に設置された防犯カメラなどでオードリーの行動、正面のロックされたドアガラスを機関銃でためらうことなくブチ破り、廊下、教室を歩き回る様子がテレビに流れました。オードリーはどこかで射撃の訓練をしていたに違いないと銃火器の専門家は言っています。
 
アサルト・ライフル、ピストルなどを購入する際、多くの州では規制の強い弱いはあるにしろ、建前として、買い主のバックグラウンド・チェック(履歴を調べる)ことを義務付けています。前科があり、現在保釈中だとか、精神病患者であるとか、そんな人に銃を売ってはならない、買えないというハードルを設けています。ですが、これはザル法(日本語で実にうまい呼び方をするもんです)で、新聞、雑誌、インターネットでも売りたし買いたしのサイトを利用すれば、誰でも買えますし、街中にある質屋は鉄砲だらけです。オードリーは情緒不安定、障害で精神科に通院していましたが、大量殺戮用の短機関銃、ピストル、銃弾を問題なく購入しています。

今度の学校襲撃事件が比較的小人数の犠牲者(と言っても6人ですが)に収まったのは、地元の警察官の素早い対応があったからでしょう。テキサスのロブ小学校では警察、スワットチームが、学校に着いてから40分も時間を無駄にし、19人の生徒と先生2人が殺された教訓を生かしたのでしょう。今回は通報を受けたのが10時13分、校舎に駆け付けると同時に構内に踏み込み、犯人のオードリーを射殺したのが10時24分でした。もし、市の警察官がスワットチームの出動を要請したり、上官や知事の指令を待っていたりしたら、犠牲者は何倍にもなっていただろうと言われています。
 
こんな事件がある度に、銃規制を強めようという機運が高まります。バイデン大統領はアサルト・ライフル(短機関銃など)の全面禁止を打ち出していますが、莫大な寄付金政治献金をNRA(National Rifle Association;全米ライフル協会;銃火器の製造販売の協会)から受けている共和党が、現在、議会の多数派ですから、アサルト・ライフル禁止法案が成立する可能性はないでしょうね。
 
テネシー州で、主に子供を持つ父兄が大きなデモ行進をし、州議会に詰めかけています。
このような銃火器販売反対運動を見るたびに虚しさが込み上げてきます。殺された子供たちの写真を掲げたり、ローソクや花を片手に、もう一方の手にプラードを持って行進しても、結局アメリカでは何も変わらないのです。 
 
銃は、アメリカ人にとって信仰の一種なのです。
共和党の議員は口を揃えて、「個人が身を守るために銃を持つのは憲法で保証された権利である。銃そのものに罪はない、使う人間の方に問題がある」と、トンチンカンな見解を繰り返しています。手始めにアサルト・ライフルだけでも禁止できれば、どれだけの人命が救われるか分かっていないのです。分かっていても重要な資金源であるNRAを失いたくないのかもしれませんが…。

銃火器規制反対派の意見が狂っていることは、核兵器拡散禁止条約を見ればわかりそうなものです。核兵器、原子爆弾を持たない、持たせないことが、世界の平和のために如何に大切なことか、地球人誰しも知っていることです。

起こり得ない夢想かもしれませんが、アメリカが少なくてもアサルト・ライフルのような機関銃を、日本の中世で行った“刀狩り”のように、販売も所持も禁止することを切に願っています。

 

 

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Grace Joy
(グレース・ジョイ)
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中西部の田舎で生まれ育ったせいでょうか、今でも波打つ小麦畑や地平線まで広がる牧草畑を見ると鳥肌が立つほど感動します。

現在、コロラド州の田舎町の大学で言語学を教えています。専門の言語学の課程で敬語、擬音語を通じて日本語の面白さを知りました。

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