第735回:巨大産業 痩せ屋 その2
この”Weight Watcher”プログラムに、私の母も会員になり参加していました。母は決して超デブではありませんでしたが、太り始めていました。中年太りだったのでしょう。少しばかり責任のある地位に就き、人前に出ることが多くなり、エリザベート皇紀ほどではないしろ、人目を気にし出したのです。
”Weight Watcher”は町の中のショッピングモールなどに、小さな診療所のようなお店を設け、一人ひとりと面談し、その個人に合った無理のない減量プログラムを作り…と言っても何十、何百かのケースのプログラム・パターンはすでに作成済みなのでしょうけど、会員になると、週1回程度のコンサルティングやアドバイスを受けることができるのです。他の痩せ産業と違うところは、道具、器具、サプリを売りっぱなしにしないところでしょうか。アメリカ全土に何千、否、何万を越す”Weight Watcher”の出店があります。どこで儲けているのかと覗き見的興味で、2、3度母に付いて行ったことがあります。
対応した減量コンサルタントは、元超デブだったけど、今は中肉になった中年女性で、もちろん”Weight Watcher”で減量に成功した人です。それなりのトレーニングを受けているのでしょう、とても親身になって相談に乗ってくれるのです。そして、決して押し付けがましくなく、プログラムに沿った、低カロリーの食品、フリ-ズド・ドライや冷凍のパッケージを勧めるのです。会員はそれを何食分か購入してしまうことになります。他にあらゆる食材のカロリー表、各自が書き込むエクササイズと食事の日程表なども手渡されます。台所用の小さなハカリも会員になると貰えます。
私のお婆さん(母の母です)は、「少なく食べるためにお金を払うのかい? アレマ~」と呆れていました。
アメリカ全人口の71%がオーバーウエイトということは、1億5,500万人ということになり、その重さでアメリカ大陸が地盤沈下するのでは…と心配になるほです。深刻なのは、少年、少女たち、若年からその傾向が顕著になってきていることでしょう。学校給食が改善され、構内からお砂糖たっぷりのソフトドリンク(コカコーラなど)の自動販売機を追放?したり、腐心していますが、いま一つ効果が上がりません。
学校でいくらコントロールしても、一旦家に帰り、冷蔵庫を開ければジャンクフードやソフトドリンクがぎっしり詰まっていて、無制限に飲み食いできるのですから…。そして、コンピュータゲームに没頭し、外で泥んこになって遊んだりしない環境なのです。こんな生活をしているのですから、それで体重を減らそうたって無理というものです。
ところが、アメリカ成人の98%が何らかの形で健康志向、食べる物に気を配ったり、散歩、運動をしたり、体重を意識したオコナイを試みているというのです(Rena Wing教授、Brown大学による)。
彼女の調査は1万人以上、全米50州に及んでいます。ですから、かなり正確だと思います。でも、それだけの人、ほとんど全部のアメリカ人が減量し、健康であろうと試みているのに、その71%もの人がオーバーウエイトだというのは、チョット悲しすぎる現実ではありませんか。
そこへ、打ち出の小槌、魔法の秘法が現れたのです。何も減量に苦労なんかしなくても、これさえやれば確実に痩せる方法が見つかったのです。これは“Bariatric Surgery(肥満減量手術)”と呼ばれているもので、お腹を切り開き、胃袋の入口、食道から胃に繋がるところに輪をかけ、入口を狭くする手術です。同時に腸を半分くらい切り取り、栄養吸収を減らすという、何とも物理的な荒業なのです。
この手術が健康保険でできるようになり、スワッとばかり広がりました。健康保険会社にとって、オビース(obese;肥満)が原因で起こる多くの病に保険金を使うより、デブ対策、予防として内臓を改造する手術の費用を支払った方が得策だと考えたのでしょうね。ついでにお腹の脂肪をかき取って貰うのは別会計だそうです。
知り合いや同僚に、この手術を受けた人を5人知っています。その効果たるや大変なもので、オヤ? 変身したか…と見違えるほどです。ところが半年後、その内の3人はまた元のモクアミでプクプク体型に戻り、あとの2人は体調を崩し、いつも吐き気に襲われています。世の中、魔法の痩せ方など有り得ないことのようです。
健康の大敵であるお砂糖たっぷり、しかも習慣性、中毒になるコカの要素を含んだ“コカコーラ”で莫大な財をなしたコカコーラ社がThink Tank (オビシティー;太りすぎを考察する会)を主催し、カロリーの少ない人口甘味料を使ったダイエット・コークやカロリーゼロのソフトドリンクを開発、販売し始め、必ずしもソフトドリンク、イコール悪役でないキャンペーンを打ち出しています。
ブラウン大学の教授、レネ・ウイングさんが中心になって調査を進めているNWCR(National Weight Control Registry;国立体重管理局とでも訳せばいいのでしょうか…)は、コカコーラ基金からは一銭も(1セントというべきでしょうか)受け取っていないと言明しています。レネ教授、暗に人口甘味料を使った俗にいうダイエット清涼飲料水は、体重を増やしはしないが、他に害が出てくることを示唆しているのでしょう。
アメリカで日本食が体に優しい、健康に良いとブームになってから久しくなります。日本は世界に冠たる長寿国であり、アメリカ的デブは見かけない、それは一つに日本食のせいだというわけです。ところが最近、日本に帰る度に、太っている人が増えたな~という印象を持ちます。きっと日本にアメリカ食のハンバーガーが広がったせいかなと思ったりします。
アメリカの日本食は、もうブームではなく定着しています。スーパーにインスタントラーメン、カップヌードル、お醤油、カリフォルニア産だけど日本的なお米、米酢、ホンダシ、インスタント味噌汁、味噌などが並んでいます。肝心の魚ですが、新鮮な魚は太平洋沿岸、大西洋沿岸の州、町ではフンダンにありますが、私たちが住んでいるコロラド州の田舎町ではサケしかありません。冷凍ならマグロ、ハマチ、カジキマグロ、サバ、カニ、イセエビ、ロブスターなどなどが並んでいるのですが。それに何と言っても、お値段がヒレ肉の倍以上するので、日本食にこだわり、肉のかわりにオメガ3をフンダンに含んだ魚を食べるのは健康オタクの中でも高所得者層ということになります。
煎茶、緑茶も身体の中で酸化を防ぐ効果、要素があるというので、どこでも買うことができるようになりました。インターネットでは、日本直送を謳っている会社もあります。でも、一般のスーパーに並んでいる緑茶、煎茶は色こそ緑ですが、日本のお茶のイメージとは掛け離れたものです。一般にアメリカ人はコーヒー以外の熱い飲み物をあまり飲みません。もっぱら、氷をがばっと入れた水、ソフトドリンク、アイスティー専門です。緑茶にも砂糖を入れて飲みますから、緑茶がいかに抗酸化作用があるといっても、お砂糖はそれを上回るカロリーを提供してることになります。
ウチのダンナさんのセオリーですが、好き嫌いの激しい人ほど太っていて、目の前にあるものならテーブルやナイフ、フォーク以外、何でも食べる人は存外痩せていると言うのです。そう言われてみると、なるほどその傾向はかなりハッキリと現れています。でも、これは結果論ですから、好き嫌いの激しいデブに、何でも食べれば痩せるよ、とは言えません。元々好き嫌いのある人は、食べ物に執着が強いと言えます。
アメリカのオーバーウエイト問題は国民病で、簡単に解決策が見付かったり、ワクチン接種で抑えられることはないでしょう。世界の3分の1が飢えている時、太っていることは恥ずかしいことなのですが…。
-…つづく
第736回:生死の境
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