第879回:他人の目、外国人の目
日本のニュースを見ていて、読んでいて気になるのは、外国人、主に西欧人ですが、ツーリストが何に対してどう感じたか、どう思ったかの意見、評価の多さです。
それも、日本に何年も住み、日本の社会で暮らしている人ではなく、全くの観光客の意見をありがたく拝聴し、報道しているのです。ですから当然、彼らが自国にいては気がつかなかった、日本的なおもてなしの精神、礼節、モラルの高さなどなど、日本人にとっては当たり前のことを、彼らは意外に感じ、こそばゆいくらいに日本を褒め上げることになります。
アメリカの若者、ドイツやオランダから来たカップルが日本食を初め、公共の乗り物の便利さ、落とし物を拾った人が警察に届け、それが元の持ち主に帰ってくる社会(もちろん100%戻ってくるわけではありませんが…)、通勤電車できちんと並んで待っていること、そして外国人に対するホスピタリティ(歓迎する精神)は素晴らしいと褒めるのです。
全般的に彼らの関心は多分に皮相的な日本文化、そして食べ物、安さ(円が下がっているのでアメリカ、ヨーロッパ人にとっては、何でもとても安く感じられるのでしょう)にあります。
観光客ですから、外国人の大半は2週間程度、長い人でも1ヵ月の滞在ですから、日本の上っ面だけ見た、触れたと言って良いでしょう。その中で、コンビニに足を運んだ人は、その多彩さ、食品の美味しさに強い印象を受けています。
コンビニ弁当、おにぎり、バラエティーに飛んだサンドウィッチの種類、などなどです。私も日本ではおにぎりの愛好家になってしまいます。それにしても、あのセロファンをスイと抜くと新鮮でパッリとした海苔に包まれたおにぎりが出てくるのは、誰が発明したのでしょうか、ノーベル賞ものの発案だと感心します。でも、観光客でコンビニまで行く人は極めて限られているでしょうね。
パスタというとイタリア料理、スパゲッテイ、ラビオリ、マカロニを思い出しますが、最近アメリカだけでなく、ヨーロッパでも日本の麺類、ラーメン、お蕎麦、うどんに人気があります。外国人ツーリストも今では、お寿司、すき焼きを超えて麺類に凝っている、そのために日本に来たと答えている人が結構いるのに驚かされます。それにチップを全く払わなくても良いというのは素晴らしいことです。
ある程度の期間、日本に腰を据え日本的なもの、合気道、空手、柔道、弓道、茶道、指圧などを学ぼうとという人たちは、こんな外国人がいると珍種の動物のように紹介されます。何年も修行している刀鍛冶、日本酒の醸造元でお酒の仕込みなどに打ち込んでいる外国人なたちです。
誰もが日本で感心するのは“安全”です。私も四谷の大学で客員教授をしていたとき、幼稚園児(ほどに小さく見えましたが、小学生低学年かもしれません)たちが、黄色や赤い帽子を被って、J Rで通学しているを目の当たりにして新鮮な驚き、ほとんどショックを受けました。
アメリカならスクールバスに乗るまで親が子供に付いているのがほとんど義務になっています。私たちが住んでいる高原台地でも、個人の家から群道まで20-30メートル、大きな牧場の家でも200メートルくらいのものですが、親が車でスクルールバスの停留所までお出迎え、お見送りをしています。
これは子供を誘拐し、性的な悪戯をする捻れた性犯罪者から我が子を守るため?だそうです。しかし、どこの誰がスクールバス乗り場から自宅までの私道のドライブウェーで誘拐なんかできるもんですか、するもんですか。いつまでも親に頼る子供、と我が子の自立、独立を認めることができないヘリコプター母親を作り出しているように見受けられます。
もう一つ、外国人観光客がとても感動するのは、日本人のオモテナシ精神です。普段の生活で日本の家庭であれほどのご馳走を食べているわけはないでしょうけど、外国人、外国からのお客様が訪問してきたとなると、俄然張り切ってオモテナシをするのでしょう。これには一歩日本の家庭に足を踏み入れた外国人は感動するはずです。
そして清潔さです。地下鉄のホームを清掃している駅員、奇妙に短い枝の付いた箒で近所の人たちが集団で町を綺麗にしている様、そして小学生ですら、授業が終わったあと、教室、廊下を掃除しているのに感銘させられます。
そんな風景を目にした外国人なら誰でも目を丸くして感動するでしょう。一般に西欧の国々では道路の掃除は市、町が行うものだし、学校の掃除? そんなことを子供させたら、親が怒って抗議するでしょう。教室、廊下の掃除は専門の掃除会社かジェネター(用務員のおじさん、叔母さん)がやることなのです。従って、子供たちは教室、廊下、体育館を汚しっぱなしにします。
確かに街中は綺麗ですが、もう40−50年前、私が初めて大阪に住んでいた頃は、夜の繁華街で酔っ払いが立ち小便をしているのは当たり前の光景でした。それでも、アメリカの大都会のゲットーのようにストリートがゴミだらけではなく、どこを歩いても安全でした。
外国人と書いてきましたが、このマスコミが取り上げる“外国人”は、もっぱら西欧人で、お隣の韓国、中国、台湾、そしてフィリピン、タイ、インドネシア、マレーシアなどの観光客の意見をマスコミが取り上げることはとても少なく、ということは、日本人読者も西欧人が日本で何を観て、どう感じるかだけに関心があるようなのです。
早く言えば、西欧コンプレックスの裏返しのように思えます。それどころか、中国人観光客は騒々しく、観光地に平気でモノを捨てる、汚す、ホテルの部屋も乱雑極まりないままチェクアウトするなどなど、批判します。
そんな記事を見て、大昔ヨーロッパで観光ガイドで口のりをしのいでいた経験を持つウチのダンナさん、あの当時の“農協ツアー”の人たちは酷かった…と、中国人の観光客のマナーはただ過渡期なんじゃないかと観ています。
日本人が西欧人の評価を気にし過ぎるのとは対照的に、観光立国、観光大国のスペイン(観光避暑の島イビサに住んだことがあるので、多少は知っているつもりですが…)は、自国の人口を遥かに超える観光客を迎えていながら、イギリス、ドイツ、北欧のお金を落としてくれる避暑、観光客の評価、意見などまるで眼中にない様子なのです。基本的には、私たちの国、やり方が嫌なら他へ行け、好きなら来年も来い、という態度なのです。
自己中心的に観光客受け入れをしているスペインと、常に外国人、西欧人の目を気にしている日本人、どちらが良い悪いの問題ではないのですが、紅葉の京都で、清水寺参道は大混雑、それじゃ西山の柳谷観音への千本紅葉へと押し寄せる目ざとい観光客の80%は外国人だと、土産物屋のおばさんがコメントしているのを聞くと、ニセコのスキー場を訪れた外国人が80万人に及び、リフト券、ホテルも値上がりし、地元道産子のスキーヤーが近づけない事態になっていると聞くと考えてしまいます。
閑静な味わいを持つお寺などはある程度の垣根を設け、それを乗り越えてくる分には構わないけど、大量の観光客をドッと受け入れるのはどうかな~という気がします。
日本人の優しさ、オモテナシの心情も、大量の外国人に踏みにじられてしまうのではないかと危うんでいます。これは、日本大好き人間の老婆心でしょうけど…。
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