のらり 大好評連載中   
 
■インディアンの唄が聴こえる
 

第28回:テロ集団、ドッグ・ソルジャー 

更新日2023/08/03

 

アメリカの西部開拓史を飾る、大掛かりな移民団、幌馬車隊、それを襲うインディアンたち、そしてアワヤというタイミングで進軍ラッパを高らかに鳴らし、砂塵を舞い上げて馬を駆る騎兵隊との激闘、こんな場面は実際にあるにはあったが、非常に少なかった。

インディアン、主にシャイアン族が率いた戦士たちは、神出鬼没をモットーにし、騎兵隊に守られた幌馬車隊などのように防御を固めている白人を襲わなかった。ドッグ・ソルジャーたちはテロ集団の原則であるヒットエンドランを原則にし、正面切っての戦いを避けていた。かつ、彼らは決められた基地を持たず、常に動き回っていた。騎兵隊はドッグ・ソルジャーやテログループ、白人が呼ぶ“悪いインディアン”の所在をピンポイントできず、退治、征伐を不可能にしていた。彼らの襲撃は、地の利を得た非常に効果的なもので、常にいく筋かの逃げ道をあらかじめ想定していたと思われる。 
 
ローマン・ノーズがグループのリーダーになるはるか以前、1830年頃からシャイアン族の跳ね返りどもが、シャイアン部族の統制を嫌って独自の行動を取っていた。いわば、分離した過激派で、白人に対し恭順してばかりいる酋長、メディスンマンらリーダーを腰抜けの日和見だと反抗し、部族から抜け出て、独自の行動で、開拓部落、幌馬車隊を襲撃するようになった。
 
歴史家によるが、彼らの行動範囲は現在のカンサス州、ネブラスカ州、コロラド州、ワイオミング州、オクラホマ州、モンタナ州と、中西部のグレートプレーン全域に及び、ドッグ・ソルジャーが襲い、略奪、殺戮したと推定される事件は400件から600件とみられている。
 
インディアンの部族の中で、シャイアン族は広範囲に住み、北部シャイアンと南部シャイアンと同部族として交流はあったが、一つの統合された集団ではなかった。それに加え、シャイアン族と友好関係にあったアラパホ族も加わった。だが、いずれにせよ、東部の小さな地域に住んでいた森林の定住部族とは異なり、大平原を渡り歩く大勢力を作っていた。シャイアン族は南東部のナッチェス族、東部の森に住むイロコイ族などのように定住し、独自の社会、文化を構成、成熟させることがなかった。
 
シャイアン族は徹底した狩猟民族で、合衆国政府のインディアン局が居留地区に閉じ込め、農耕を奨励しても、飛び出していく若者を抑えることができなかった。彼らは飛距離のある強い弓を巧みに使ったし、銃、ライフルを手に入れるや、すぐに射撃に長ずるようになった。また、馬の扱いが巧みで、粗食に耐え、長距離を走らせることができるように飼育した。彼らは馬にサドルを置かず、いわば裸馬に毛布を掛けただけだったから、騎兵隊に比べ軽量で馬に負担を掛けなかった。武器、弾薬の補給以外すべての面で騎兵隊を上回っていた。いい馬を持つことが部族の生存に欠かせないことから、盛んにいい馬を盗んだ。
 
シャイアン族とアラパホ族は白人の侵入以前にも、宿敵であるコマンチ族、キオワ族、平原アパッチ族との戦いを繰り返し、戦闘の経験を十分積んでいた。とりわけ、キオワ族との争いは激しく、お互いにどこに復讐の原因があるのか分からなくなるほど、激しい戦闘を繰り返した。時のドッグ・ソルジャーの酋長、リーダーは“ヤマアラシ・クマ”(porcupine bear)はめっぽう強い男だった。彼は白人の罠師とも交流があり、自分のグループメンバーにも積極的に売れる毛皮を獲ることを奨励し、それを罠師の元に持ち込み、ウイスキーと交換していた。

No.28-01
“ヤマアラシ・クマ”(porcupine bear) 

インディアンと我が大和民族の共通点があるとすれば、アルコールに弱く、すぐに酔っ払うことではないかと思う。私自身、グラスに4分の1のワインで顔だけなく全身が真っ赤になり、世の中のことなどすべてどうでもよく思えてくるタイプだ。ウイスキー、ブランデーなら、匂いを嗅いだだけでとは言わないが一口でそうなる。幸いと言うか、私はアルコールが入ると眠くなるタイプで、がっくりイキが下がる。翻って“ヤマアラシ・クマ”は、酒乱気味だったから始末が悪い。酔っ払い同志の喧嘩の仲裁に入り、片方からナイフを奪い、刺し殺してしまったのだ。

シャイアン族のしきたりで、同族を殺した者は部落を去らなければならないという厳としたルールがあり、当時、シャイアン族だけから成っていたドッグ・ソルジャーからも追放された。だが、彼に付き従う勇猛な戦士も相当数いた。

狼クリークの戦い、キオワ族とコマンチ族への総攻撃では、“ヤマアラシ・クマ”は自軍を率いて真っ先に特攻する戦闘集団を成し、戦闘能力の高さを知らしめた。

この頃から、“ヤマアラシ・クマ”はインディアンの部族単位の戦闘集団から離れた独立した別のドッグ・ソルジャーを組織するようになった。

-…つづく

 

 

第29回:ローマン・ノーズ登場

このコラムの感想を書く

 

 

 

 

 

 

 

 

 


佐野 草介
(さの そうすけ)
著者にメールを送る

海から陸(おか)にあがり、コロラドロッキーも山間の田舎町に移り棲み、中西部をキャンプしながら山に登り、歩き回る生活をしています。

■音楽知らずのバッハ詣で [全46回]

■ビバ・エスパーニャ!
~南京虫の唄
[全31回]

■イビサ物語
~ロスモリーノスの夕陽カフェにて
[全158回]

■フロンティア時代のアンチヒーローたち
~西部女傑列伝 5
[全28回]

■フロンティア時代のアンチヒーローたち
~西部女傑列伝 4
[全7回]

■フロンティア時代のアンチヒーローたち
~西部女傑列伝 3
[全7回]

■フロンティア時代のアンチヒーローたち
~西部女傑列伝 2
[全39回]

■フロンティア時代のアンチヒーローたち
~西部女傑列伝 1
[全39回]

■フロンティア時代のアンチヒーローたち
~西部アウトロー列伝 Part5
[全146回]

■フロンティア時代のアンチヒーローたち
~西部アウトロー列伝 Part4
[全82回]

■フロンティア時代のアンチヒーローたち
~西部アウトロー列伝 Part3
[全43回]

■フロンティア時代のアンチヒーローたち
~西部アウトロー列伝 Part2
[全18回]

■フロンティア時代のアンチヒーローたち
~西部アウトロー列伝
[全151回]

■貿易風の吹く島から
~カリブ海のヨットマンからの電子メール
[全157回]


バックナンバー
第1回:消えゆくインディアン文化
第2回:意外に古いインディアンのアメリカ大陸移住
第3回:インディアンの社会 その1
第4回:インディアンの社会 その2
第5回:サンドクリーク前夜 その1
第6回:サンドクリーク前夜 その2
第7回:サンドクリーク前夜 その3
第8回:サンドクリーク前夜 その4
第9回:サンドクリーク前夜 その5
第10回:シヴィングトンという男 その1
第11回:シヴィングトンという男 その2
第12回:サンドクリークへの旅 その1
第13回:サンドクリークへの旅 その2
第14回:サンドクリークへの旅 その3
第15回:そして大虐殺が始まった その1
第16回:そして大虐殺が始まった その2
第17回:そして大虐殺が始まった その3
第18回:サンドクリーク後 その1
第19回:サイラス大尉 その1
第20回:サイラス大尉 その2
第21回:サンドクリーク後 その2
第22回:サイラス・ソウルの運命
第23回:サンドクリーク後のシヴィングトン
第24回:サンドクリークとウィリアム・ベント
第25回:ウィリアム・ベントの子供たち その1
第26回:ウィリアム・ベントの子供たち その2
第27回:ブラック・ケトル その2

■更新予定日:毎週木曜日