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■亜米利加よもやま通信 ~コロラドロッキーの山裾の町から

第598回:トランプ大統領の年頭教書(2019 The State of The Union)

更新日2019/02/28



60日間という歴史的な長きにわたる合衆国政府機関の閉鎖を経て、どうにかお役所が再開し、例年なら1月に行われるはずの大統領の年頭教書が2月5日になってからありました。 

お金、予算がないから国家公務員に給料を払えない、だからお役所を閉める…というまことにはっきりとした国家予算のあり方と言えなくもありません。日本のように莫大な赤字を抱えたままで、“埋蔵金”という訳の分からないところから、特別予算が出てくるより分かりやすいと言えなくもありません。少なくとも“無い袖は振るな”という一点だけは明確です。

アメリカは“合州”の国で、軍事、外交以外はほとんど州単位で動いていますが、国の機関というのは、軍隊、国境警備隊、沿岸警備隊、FBI、CIA、NSA(国家安全局)、それに国立公園などです。他の公務は州単位、地方自治体などが司ります。

市役所、市や州の警察、小中高校、大学、ゴミの収集のように私たちの生活に直接結びつく仕事はすべて州もしくは地方自治体が受け持っています。

私たちが今住んでいる小屋は国立公園の奥にあります。だから毎日、国立公園を通って通勤していますが、その国立公園の入口ゲートは開けたままで、星条旗も揚がっていません。顔馴染みになっている元々薄給の職員の方々、休みとはいえ無給でクリスマス、お正月を過ごさなければならかったと思うと、気の毒でなりません。 

合衆国政府閉鎖の一番の原因になっているのは、メキシコとの国境に鉄の塀、万里の長城を作る予算の承認です。万里の長城建設のため、国立公園の職員、国有林のレンジャーが2ヵ月近く無給だというのは、なんだか、“風が吹けば桶屋が儲かる”に似ていなくもありません。

万里の長城建設計画は、トランプ大統領が選挙の時から公約し、政治生命を賭けた懸案事項ですから、なんとしてでも作り上げたいモノなのでしょう。何度も予算を書き換え、はじめに計画したものの、何倍ものお金が必要なことが分かり、民主党がどうにか多数を占める下院議会が、そんな無駄なことにお金を出せるか、第一、そんなお金は国家予算にない、と拒否し、トランプ大統領が建設中の万里の長城建設費用の歳出をストップしたのです。

年頭教書でもトランプ大統領、長々と十数分、メキシコ国境の万里の長城が如何に大切であり、このままメキシコからの移民、難民を受け入れていると、近い将来、アメリカがアメリカでなくなると、危機感を煽って、壁の必要性を訴えていました。

アメリカで、メキシコ系、中南米系の人たちをまとめてラティーノ(Latino)とかヒスパニック(Hispanic)と呼んでいます。言ってみればスペイン語を話す人たちをまとめてそう呼んでいるのです。現在、アメリカに住んでいるラティーノ・ヒスパニックは5,700万人いると見られています。その中で圧倒的に多いのがメキシコ系で3,600万人以上で、次がプエルトリコ人ですが、プエルトリコはアメリカ領で(手のいい植民地みたいなもの、グアム、サイパンと同じです)550万人います。

アメリカでは、アメリカで生まれた赤ちゃんには無条件で国籍が与えられます。たとえ違法にアメリカに滞在している母親から生まれたとしても、アメリカ国内で生まれれば、赤ちゃんはアメリカ人として認められます。それがまた、繁殖能力の衰えたアングロサクソン、コーカソイドの白人とは違い、ラティーノはお盛んで、次々と子孫を増やす傾向があるのです。

そこに、子供は合法的なアメリカ人なのに、両親は不法滞在者という事態が生まれているのです。トランプ大統領のお声がかりで始まった、不法滞在者(主にメキシコ、ラティーノに的を絞ったものですが)の取り締まり、強制送還で、両親と離れ離れになる子供、赤ちゃんが出てきたのです。強制的に母親と引き離された幼児が、収容所内で死亡する事故があり、大きな社会問題になりました。

今まで保守の土壌と言われていた、農業に従事する人たちが、こぞってトランプのラティーノ締め出しに反対し始めました。テンポラリー(季節労務者)として短期労働ヴィサを発行していたのを、規制を一挙に厳しくし、労働ヴィサを降ろさなくなったからです。確かに、一旦季節労働者としてアメリカに入ると、そのまま居座ってしまう人が相当数いるのは事実です。しかし、大々的に農業の労働をラティーノに頼っている、フロリダのオレンジ、カルフォルニアの野菜、果物は収穫する人手がないまま腐り始めている様子がレポートされており、農園の持ち主もメキシコ人が来てくれなければ、農園を辞めるしかないとコメントしています。

このままの勢いでラティーノが増え続けると、2050年(2035年と言っている人もいます)には確実に白人、コーカソイドを抜いて、ラティーノがマジョリティー(多数派)になると言われています。

アイルランドの大飢饉の時にアイルランド人が大挙してきたように、アメリカは元々、そのように形作られてきた国ですから、ラティーノが大多数になったところで、コーカソイドが慌てることはないと思います。それで良いと思うのです。

トランプさん、盛大な税金の無駄使い、万里の長城建設なんかやめて、その分、メキシコ人や他のラティーノの教育にお金を回してください。彼らを立派なアメリカ市民になるように教育するのが、アメリカの将来を築くことに繋がりますよ。私、これでも教育者の端くれですから、どんな問題でも教育に結び付けてしまうのが本品の特徴ですが……。

-…つづく

 

 

第599回:戦争と平和

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Grace Joy
(グレース・ジョイ)
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中西部の田舎で生まれ育ったせいでょうか、今でも波打つ小麦畑や地平線まで広がる牧草畑を見ると鳥肌が立つほど感動します。

現在、コロラド州の田舎町の大学で言語学を教えています。専門の言語学の課程で敬語、擬音語を通じて日本語の面白さを知りました。

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