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■亜米利加よもやま通信 ~コロラドロッキーの山裾の町から
 

第927回:相撲世界選手権と大相撲

更新日2025/12/04 



日本の大相撲も結構海外で知られるようになってきて、インターネットで即日、その日の取り組みを観ることができるようになりました。

鳴り物入りでロンドン公演、巡業も行われましたし、ヨーロッパ、アメリカの人気スポーツ、フットボール、アメリカンフットボール、野球、バスケットなどにははるか及びませんが、そんな競技があると知られるようにはなりました。今まで、東洋の格闘技といえば、カラテ、ジュードー、カンフー、タイクワンドーに限られていましたので、伝統を踏まえた美しさのある相撲が東洋の格闘技に全く別の角度から割り込んできたと言っていいでしょう。
 
先場所、安青錦が優勝したのは話題になりました。なんでも、ウクライナからやってきた力士ですから、世界中のトピックスにならない方がおかしいくらいです。これまで外人のお相撲さんといえばモンゴル人が圧倒的でしたが、比較的小柄なウクライナ人が大活躍し、しかも優勝までしたのですから、マスコミも騒ぐこと、騒ぐこと。

“U.S. Sumo Open”なるものがあるのを知っている人は案外少ないかもしれませんね。今年2025年の大会は40ヵ国から700人の相撲取りが集まって、アメリカ、西海岸のロングビーチで開かれました。

土俵をリンクと呼び、カタチ、大きさこそ大相撲の土俵を同じですが、土、俵(タワラ)もないプラスティックのリンクで、土俵は白、俵は緑、しかも行司はアンパイアー、ジャッジと呼ばれ、トレパン、長袖のワイシャツと白ずくめで、蝶ネクタイを締めています。
 
そして力士の方ですが、大半が短パン、タイツの上にまわしを占めているのです。もちろん丁髷を結っている力士はいません。長い髪をポニーテールに結んでいる人はいますが…。

力士、選手と言った方が合っているかしら、に黒人と東洋人が結構多いのです。黒人の方、高校時代からアメフトのディフェンスで鳴らした超重量級の選手、体格的に見劣りのする東洋系は元柔道家が多いようです。
 
外人、西欧人に人気のない仕切り直しがなく、パッパと取り組みが繰り広げられます。技の名前、呼び方は寄り切り、上手投げ、押し出しなどなど、アメリカ発音の日本語です。

力士たちの負けっぷり、勝って奢らずのマナーも非常に良く、ガッツポーズを取ったり、大声で鬨の声を上げたりしません。この辺り、日本の“礼”が身についているかのようです。

この大会の大スポンサーはキリンビール、白鶴など日系の企業が名を連ねています。会場はとても国技館とまではいかず、場内アナウンスでは4,500人と言っていましたが、おそらくそれはホールの収容人員数でしょう。ザーッと見回したところ、空き席が目立ち、6、7割の入りと言うのが実情でないかしら。
 
大相撲とこの“U.S. Sumo Open”との大きな違いは、女性の部があることです。もちろん(残念ながら?)女子性の力士全員、体にピッチと張り付くようなスポーツウェアにタイツ、その上にまわしを占めていますが。超重量級が押しまくるだけで、軽量力士が大技で重量級を投げ飛ばすには至っていないようでした。女性のボクシング、キックボクシング、プロレスなどの格闘技が盛んになってきていますから、女子相撲もその内に花開くかもしれませんね。

相撲ファンの私に言わせて貰えるならば、どんなカタチであれ、相撲が世界中に広がるのは喜ばしいことですが、日本の大相撲はただの格闘技でなく、日本の無形文化、能、狂言、文楽のように長い何月をかけて培われてきた一つの様式美が備わっていなければ成立しないタイプのものだと信じています。ただ強けりゃいい、相手をブチかませばいいというスポーツではないのです。長い相撲の歴史において、徐々に変っていった部分も多いことでしょう。でも、そこには日本でしか継承し得ない伝統があると思っています。
 
蔵前国技館に一歩足を踏み入れただけで、身が引き締まり、鳥肌立つ、あのような雰囲気、感覚はローヤルアルバートホールやマジソンスクエアガーデンではあり得ないことです。第一、マイクを使わない音の響きが違います。拍子木が打ち鳴らされ、呼び出しが良く通る声で力士の名を呼び、そして、あのぶつかり合う時の音はどうでしょう。
 
相撲を国際的に広げるには、海外巡業や“U.S. Sumo Open”を盛んにすることではなく、多くの外国人力士を育てあげていくことの方がはるかに大切だと私は思っています。モンゴルで朝青龍、白鵬を知らない人はいないでしょうし、ブルガリアの琴欧洲、そしてエストニアで手広く活躍している把瑠都、ハワイでハワイアンソングにまでなっている小錦、曙、武蔵丸、故郷で自身が活躍するだけでなく、必ず日本の伝統文化の大相撲を認めさせていることでしょう。
 
外国から優れた資質を持つ弟子を集めるのは時間がかかることです。ですが、そんな積み重ねが、派手派手しいロンドン巡業より本来の相撲を知らしめることになると思うのです。

安青錦関、これからも横綱を目指し大きく育ってください。

 

 

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Grace Joy
(グレース・ジョイ)
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中西部の田舎で生まれ育ったせいでょうか、今でも波打つ小麦畑や地平線まで広がる牧草畑を見ると鳥肌が立つほど感動します。

コロラド州の田舎町の大学で言語学を教えていました。専門の言語学の課程で敬語、擬音語を通じて日本語の面白さを知りました。

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