第928回:ホームレスと犬たち
私たちが住んでいる高台大地から谷の町に降りる時、一度ホームレス・ヒッチハイカーを拾ったことがあります。ここから町までおよそ32-33キロあり、ヒッチハイカーなどまず見かけません。見るからにホームレス風だし、おまけに小犬まで連れているのです。幸いと言うか、元ヒッチハイクで旅をしたダンナさんと一緒でしたので、彼、迷うことなく即、車を道路脇に止め、車の後ろのドアを開け、小犬を連れたホームレスと握手し、町までなら乗っていけと気軽に話しかけ、乗せたのです。
ホームレス氏は丁寧に名乗り、犬まで紹介してくれました。でも、車の後ろ座席に乗り込んだ瞬間から、強烈な体臭と服に染み込んだマリファナの匂いが鼻を突いたのです。第一、犬連れではヒッチハイクは難しいでしょう。この辺りは農作業用のトラック、ピックアップ・トラックが多いので、荷台に乗せてくれる可能性はあるでしょうけど…。私たちの車はそれから2、3日の間、彼の体臭とマリファナの匂いが染み混んでしまいました。
何よりも驚いたのは犬(名前は忘れました)の躾がとても良いことです。私の兄弟、姉妹、従姉妹、甥っ子 友人で屋内ペットとして犬を飼っている人が多いのですが、程度の差こそあれ、誠に落ち着きなく、嗅ぎ回り、吠え、ベトベトとジャレ付き、自己中心の赤ん坊のように振る舞うお犬様が圧倒的なのです。
そこへ行くと、このホームレスおじさんの連れている犬は一体どうなっているのでしょう。不思議なほど行儀が良く、一度も鳴いたり、吠えたりせず、しかも車の座席ではなく、おじさんの指示通り、座席を毛で汚さないため床にうずくまって大人しくしていたのです。
ヨットでセーリングをしていた時代、盛んに呼んだり、呼ばれたりのコックピットパーティを行いました。その時、シングルハンダー、一人でいかにも孤独を愛してます……みたいにセーリングをしている人が一人でもいると、その寡黙で人間嫌い風貌のその人が、他の人の会話どころか、存在を無視するかのように喋りまくるのに、何度も遭遇しました。それがあまり積み重なるので、シングルハンダー病と名付けて敬遠するようになってしまいました。
そして、我が子犬を連れたヒッチハイカー氏、喋るは喋るは町に着くまでの約1時間、自叙伝を2、3冊書けるほど話しまくったのです。一人暮らし(我がホームレス氏、一人暮らしかどうか聴き忘れましたが…)の人は話し相手が、そして自分の話を聞いてくれる人が欲しいのでしょうね。
町に降りる時の最初の信号にさし掛かった時、やおらアイフォンを取り出し、今どこどこの交差点にいるから、そこにあるガソリンスタンドに迎えに来い…と誰かに告げたのです。
そのガソリンスタンドで彼を降ろした時、幾分ホットしたことを告白しなければなりません。
ホームレス・ヒッチハイカー氏、実に丁寧にお礼を述べ、ダンナさんとは硬い握手を交わしましたが、私は彼にハグされると嫌だなぁと車から降りず、手を振って別れたのでした。
谷間の大学町は、老人ホームの多いところです。そして、比較的温暖なので自然ホームレスも集まります。ホームレスシェルターも数ヵ所あり、“フッドバンク(食品配給所)”活動も盛んで、ホームレス・ウエルカムとまではいきませんが、町の行政もホームレスを保護する方針のようです。
街角で喜捨を乞うホームレスの姿をよく見かけます。街中にある公園の公衆トイレの近くは溜まり場になってしまった感すらあります。
そんな彼ら、彼女らの大半、全くの推定ですが60%くらいが犬を連れているのです。もちろん、餌を大量に食う超大型犬や、獰猛なピットブル、ラットワイラーの類ではなく、中型より小さめの犬が多いです。これも当然のことですが、全米ドックショー、品評会に登場するようなプードルなどのお犬様的な犬ではありませんが、一様にご主人様と一体となっているかのように、ホームレスのすぐ脇にチョコンと座ったり、丸くなって鎮座しているのです。
ダンナさんのホームグラウンドである図書館の前にも、ヒモで繋がれた犬をよく見かけます。ご主人様が図書館で用を足すのを待っているのでしょうね。
全米のデータは分かりませんが、サンタフェは人口10万内外の街で、そこに375人の常駐ホームレス(冬になると寒い北からの移ってくるので1,600人ほどに膨れ上がるようです)がいると言われています。そこで彼らが連れている犬が動物虐待に当たる、きちんと餌も水も与えられていない、定期検診も受けさせていない、お犬様に適切な環境ではないと動物愛護協会が訴え、市が動き出し、ホームレスが犬を飼うことを禁止する条例を通したのです。
ホームレスと同行している犬を彼らから取り上げ、野犬用のシェルターに“強制連行?”したのです。そこでは獣医の検診を受け、予防注射を施し、栄養のバランスの良い食事 餌が与えられるのだそうです。でも、写真で見た2、3メートル四方の鉄格子の収容所?に入れられた時の方が、ホームレスと一緒の時より幸せだなんて誰が言えるのでしょうか? もし犬が人間の言葉を話すことができたら、答えははっきりしていると思います。
豪華な住宅で飼われている犬は、飼い主が仕事に出ている日中家に閉じ込められ、独りっ子犬で神経質にイライラし、そんな犬のためのテレビ番組を付けっぱなしにし、放って置かれ、精神に異常をきたした犬のための動物心理、精神科医が流行る由縁です。
それよりも何よりも、犬を取り上げられたホームレスの悲惨さの方が重大問題だと動物愛護の運動家、それに動かされた市の職員は、なぜ考えないのでしょうか? ホームレスも人間で、犬は人ではないことに気がつかないのでしょうか?
彼らにとって連れ歩いているみすぼらし犬は最愛の友達であり、伴侶なのです。定期検診?それは犬より先にホームレスたちに施すべきことです。ホームレスシェルターに犬小屋を作るか、犬同伴を許す一角を設け、ドックフッドも供給するべきなのです。
犬好きのダンナさん、「俺が犬なら、豪華邸宅でペットとして飼われるより、野良犬になるか、ホームレスに飼われる方を選ぶな…」と呟いていました。
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