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第30回:ローマン・ノーズの最期 

更新日2023/08/17

 

ローマン・ノーズは、酋長でもメディスンマンでもなかった。単なる戦闘的対白人テロ集団グループのリーダー的な存在だっただけだ。その意味で、歴史に名を残した有名な酋長、シッティング・ブル、クレージー・ホース、ブラック・ケトルらは酋長であり、ジェロニモがメディスンマンだったのとは違う。

騎兵隊は7連発のスペンサー・ライフルを採用した。このライフルは、クリストファー・スペンサー(Christopher Spencer)が1860年に意匠設計し、南北戦争の終わり頃までに20万挺も生産された。戦争は武器を飛躍的に改造させ、広げる。だが、南北戦争終焉とともに、スペンサー・ライフルは余剰気味になり、騎兵隊の正式ライフルとして採用された。騎兵隊が乗る馬のサドルに斜めに突き刺すように持ち運びができ、軽量でしかも射程距離が長かった。

No.30-01
スペンサー・ライフル、7連発銃
これは1865年モデルで、毎年のように改良されていった

No.30-02

西部劇でよく見る、引き金のハンドガード枠部分をガチャと向こうに押し倒すことで、空の薬莢が飛び出し、同時に弾倉から次の銃弾が送り込まれる方式だ。当時のヨーロッパ、アメリカでの銃の改良は著しいものがあり、10年と言わずに変化していった。スペンサー・ライフルもよりスムーズに作動し、遠くの標的を正確に撃ち抜く、銃身内に螺旋を施したウィンチェスターにとって変わられる。
  

日本に火縄銃が持ち込まれてから国産の長銃を生産するまでは目を見張るほど早かったが、その後、徳川幕府300年近くの間、進展が止まってしまった。明治維新の時ですら、先込め式ゲーベル銃、ただ火縄が火打ち石に変わっただけの銃に大金を払い、ありがたく購入していたのには呆れる。その時すでに西欧では、元込め式、カートリッジ、薬莢を使う銃が主流になっていたのだが…。 


この7連発銃を持ったフレデリック・ビーチャー中尉に率いられた40騎は、コロラド州北東、ユマ郡の現在ウロイと呼ばれている町の近くを流れる川の中洲にキャンプを張った。ドッグ・ソルジャーの所在を探るのがミッションだった。逆に、それを嗅ぎつけたドッグ・ソルジャーは即、攻撃を開始した。騎兵隊は中洲に閉じ込められ、逃げ場のない状態だったから、絶好の攻撃目標になったのだ。

ドッグ・ソルジャーたちはこれで良い馬と食料、それに銃弾が大量に手に入ると思ったのだろう。袋のネズミだ、簡単な攻撃目標だと取ったのだ。一回目の総攻撃は、ローマン・ノーズが指揮していなかった。これは失敗だった。断続的な小攻撃を繰り返していたが、ついに大将のローマン・ノーズが乗り出した。

この時の総攻撃には700名ものドッグ・ソルジャーが襲撃したと言われているが、いくらローマン・ノーズでも、そんな大集団を集め、組織することはできなかったと思う。第一、それだけの馬を持っていなかった。せいぜい200騎がいいところだろう。このように誇張された数字は、白人騎兵隊がいかに勇敢に戦い抜いたか、あわやという危機を間一髪で逃れたかをより劇的にするためのマスコミの誇張だろう。

背水の陣を敷かざるを得なかった40名の騎兵たちは奮戦した。騎兵隊員たちは食料も尽き、馬を殺して食べなければならない状態だった。モノを言ったのはスペンサーの7連発ライフルだった。スペンサー・ライフルで7発打ち尽くすのに18秒しかかからない上、銃弾の詰め込みも容易だった。このライフルの前に、ローマン・ノーズは決して銃弾に当たらないという神話は脆くも崩れ、陣頭を駆っていたローマン・ノーズは絶命し、落馬したのだ。生年月日がはっきりしない伝説的凶悪シャイアン、ローマン・ノーズは、1868年9月17日に死んだ。弾丸が避けていくと信じられていた羽帽(The war bonnet)を被っていたのだが…。
 
ローマン・ノーズの落命と共に、ドッグ・ソルジャーの攻撃は集中力が欠け、作戦のない衝動的なものになった。ローマン・ノーズの死と共に、ドッグ・ソルジャーの集団自体が崩壊、消滅していったのだ。彼の統率力と計画性、そして偉大なカリスマ性があってこそ、ドッグ・ソルジャーはまとまったテロ集団たり得たのだろう。
 
口伝された逸話では、包囲線を敷いている間に、ローマン・ノーズはスー族のキャンプを訪れ、そこでの会食に揚パンが出て、それをより分けるのに金物のフォークを使った。金属に触れた食物を決して摂らないローマン・ノーズは、知らずにそれを食べ、神通力を失い、結果、ライフルの弾に当たったと、まことしやかに伝わっている。
 
白人パイオニアだけでなく、騎兵隊にも悪魔のように恐れられ、インディアンたちから驚嘆されていたローマン・ノーズは、スペンサーの7連発ライフルの前にあっけなく死んだのだった。
 
ローマン・ノーズが襲ったとされている、ハングゲイトの開拓民虐殺は、サンドクリーク襲撃の起因の一つだった。ハングゲイトのサディスティックな殺戮は、インディアン撲滅すべしという世論を作り、シヴィングトンのサンドクリーク虐殺をもたらしたのだ。それを知ったローマン・ノーズの白人襲撃にますます拍車が掛かったのだった。

ローマン・ノーズがサンドクリークの虐殺を呼び、その復讐としてテロを敢行し続けたのだった。

-…つづく

 

 

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佐野 草介
(さの そうすけ)
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海から陸(おか)にあがり、コロラドロッキーも山間の田舎町に移り棲み、中西部をキャンプしながら山に登り、歩き回る生活をしています。

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第2回:意外に古いインディアンのアメリカ大陸移住
第3回:インディアンの社会 その1
第4回:インディアンの社会 その2
第5回:サンドクリーク前夜 その1
第6回:サンドクリーク前夜 その2
第7回:サンドクリーク前夜 その3
第8回:サンドクリーク前夜 その4
第9回:サンドクリーク前夜 その5
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第12回:サンドクリークへの旅 その1
第13回:サンドクリークへの旅 その2
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