サラセンとキリスト教徒軍騎士たちが入り乱れ
絶世の美女、麗しのアンジェリーカを巡って繰り広げる
イタリアルネサンス文学を代表する大冒険ロマンを
ギュスターヴ・ドレの絵と共に楽しむ
谷口 江里也 文
ルドヴィコ・アリオスト 原作
ギュスターヴ・ドレ 絵
第 10 歌 ルッジェロの大冒険
第 4 話:ロジスティーラの城
さて前回は、善き愛の清らかな乙女ロジスティーラのもとへと向かうルッジェロを追ってきた邪悪な魔女アルチーナの船に対して無数の矢が射掛けられ、ついにアルチーナが追跡を断念したところまでお話しいたしました。
ルッジェロを援護したのは、実は、ロジスティーラに仕える四人の女性騎士が率いる兵士たちの一軍。浜辺に着けば、大勢の兵士たちがルッジェロを出迎え、その後ろには四人の女性騎士。一人ひとりが比類なく美しく、その美貌の内に、一人が強靭な意志を、一人は深き思慮を、一人は瞬時に正しさを見て取る力を、そしてもう一人は無垢という力を秘め、その四人が力を合わせれば、無敵の力となって兵士たちの勇気を鼓舞するのだった。
その姿を見て、ルッジェロの疲れもたちまち回復し、翁と四人の女性騎士に礼を言うと、示された道をロジスティーラの居城に向けて深い森のなかを馬を進めた。
やがて視界が突然広がり、見えてきたのは、それまで見たこともないような美しい色をした宝石のような石で造られた華麗な城。
城全体が明るく柔らかな光に包まれ、城に近づくにつれて、優しい光がますます溢れてルッジェロを向かい入れるべく、行くべき道を光が示す。
もしかしたら天国とはこういうところかと感じながら馬を進めると、やがて見えてきたのは、エデンの園もかくやと思われるほどの美しい庭と、その向こうの、透明でありながらどこか温かさを感じさせる淡い色をたたえた細かな細工がされた宝石でつくられたアーチのある華麗な城。
見上げればなんと、アーチの上のテラスにも色とりどりの花々が咲き乱れ、城はまるで花という花に包まれているかのよう。そして、花の香りがあたりに満ち、光り輝くアーチから庭へと続く階段を降りてきた一人の清らかな乙女、彼女こそロジスティーラだった。
磨き上げられた階段を彼女が一歩一歩と降りてくる静かで清らかな足音が辺りの景色に吸い込まれていく。それまで見たこともないロジスティーラの美しさに、ルッジェロはもはや夢見心地。最愛の思い姫ブラダマンテのことさえ心中から消えて、ただうっとりとロジスティーラを見つめるばかり。ロジスティーラの美しさは、男女の情愛を掻き立てるようなものではなく、自ずと心が清らかになってくるような、そんな美しさだった。
さて、この続きは第10歌 第5話にて。
-…つづく