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■亜米利加よもやま通信 ~コロラドロッキーの山裾の町から
 

第835回:玄関ドアの小包は消える?!

更新日2024/01/25


アメリカの郵便受けは道路に面したところに杭を立て、例の板かまぼこの大きな形をしたモノで、その横に小さな赤い旗が付いているのが一般的です。その小さな赤い旗は普段は倒しておき、郵便配達があり、郵便物が板かまぼこの郵便受けに入れた時に、郵便屋さんがヒョイと垂直に立て、揚げ、それが今日、郵便があるかないかの目印になります。

もう一つ手紙を出す時、わざわざ郵便局に行かなくとも済むように、切手を貼った手紙、封筒をそこに入れ、例の赤旗を立てておくと、郵便配達の人が持っていってくれます。速達、書留だけは、郵便屋さんが玄関ドアまで来て、直接手渡し、受取証にサインをしなければなりません。家に誰もいない時はハガキ大の用紙に、郵便物を郵便局まで取りに来いと印刷してあるものを玄関ドアの下の隙間に突っ込んでいきます。
 
推定ですが90%近くの小包は玄関ドアの外に置き去られています。第一、共働きが当たり前のアメリカで、日中、家に誰かがいる確率は極めて低いのです。Fedex、UPS、USPS(アメリカの宅配会社)などなど、数ある宅急便も高い追加料金を払って書留、受取人のサインが必要な小包として送らない限り、玄関先にポイと置いていくだけです。

クリスマス、年末は小包の量が膨大に増える時期です。それに、最近の傾向では、インターネットでショッピングをして配送してもらうことが多くなりました。インターネットショッピングはアメリカで定着してきたのです。おまけに、配送料がタダ(購入した品物に含まれているのでしょうけど)のところが増え、わざわざ時間をかけてお店に出向き、おまけに消費税(地域によって違いますが6~8%です)を払わなくてもいいのですから、これを利用しない法はない、ということになります。

ところが、すでに配送済みのはずの小包が届いていないことが多くなり始めたのです。

最近、玄関の上のところに監視カメラを設置している家がたくさんあります。これは元々、押し入り強盗、空き巣、押し売りなど、怪しい人物のためですが、これに玄関先に配達された小包を猫ババする泥棒さんがバッチリ映っているのです。これじゃいくら配達員が真面目に小包を届けても、誰も受け取らないわけです。

このように玄関先から小包を持ち去る泥棒さん、車は監視カメラに映し出される距離を遠く離れたところに駐車し、徒歩でヒョイヒョイと小包を拾い集めているのです。これじゃ、クリスマス・プレゼントなんか届くわけがありません。

ニューヨーク市だけでも、毎日9万個の小包が盗まれています(2019年調べ)。全米では170万個もが毎日消えているのです。これはインターネットショッピングが広がり、アマゾンのような大手企業が年会費を払う会員になると郵送配達がタダになるシステムを取り、爆発的に売り上げを伸ばし、それじゃウチの会社でもと送料無料が当たり前になってきて、小包が急激に増えたせいでもあります。

平均するとアメリカの家庭が受け取る小包は年に27個、小包一つ当たりの平均額は140ドルだそうです。今年の被害総額は60億ドル(約8,400億円相当でしょうか)に及ぶというのです。

泥棒さんはお金持ち地区で配送車が来るのを待ち受け、玄関先に置かれていく小包を片っぱしから、持ち去るのだそうです。そして悲しい現実ですが、まず犯人が掴まらないことです。
 
監視カメラに映っている泥棒さん、しごく普通の叔父さん、お兄さん風で、以前書いたような少年ギャング団ではないようなのです。頭から被るフード付きのジャケットを着て、サングラスかけていますから、泥棒を確定しにくいのは分かります。お巡りさんも、ほとんどアメリカの国民スポーツになってしまった集団殺戮犯を追うのに忙しく、こんな空き巣以前のこそ泥を追跡するほど暇ではないのでしょう。
  
それにしても、小包の中に何が入っているのか全く判らないのに、ともかく目の前にあるモノを盗むというは一体どういう神経なのでしょうか?
 
子供の頃、クリスマスツリーの下に積み上げられた綺麗な紙に包まれたプレゼントはクリスマスの朝まで触ることはできず、クリスマスの日になって、お爺さん、お婆さん、両親、叔父さん、叔母さんからのプレゼントの包装紙をバリバリと破くのはとても楽しみでした。何が出てくるのか胸をときめかせたものです。今でも小包を開ける時、自分で注文したモノなのに胸がトキメキます。
 
泥棒さんも家に持ち帰った小包の包装紙を破り、中に何が入っているのか、興奮しながら盗んだ小包を開けているのかもしれませませんね。案外モノを盗むよりも、小包を開く楽しみが病み付きになってしまったのかもしれません。

でも、それは他の人の、もしかして子供たちの喜びを奪っていることになるのですが…。

 

 

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Grace Joy
(グレース・ジョイ)
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中西部の田舎で生まれ育ったせいでょうか、今でも波打つ小麦畑や地平線まで広がる牧草畑を見ると鳥肌が立つほど感動します。

現在、コロラド州の田舎町の大学で言語学を教えています。専門の言語学の課程で敬語、擬音語を通じて日本語の面白さを知りました。

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