第836回:貧困とは その1
父のいる老人ホームに私たち4人の兄弟姉妹が集まり、何年ぶりかで全員集合のクリスマスを過ごしました。その機会に叔父さん、従兄弟、同級生に会い、目の回るような忙しいクリスマス、年末でした。
そして、いつも思うのですが、私の家族、友達たちはどうしてこうまでモノが好きなのでしょうか? もっとも、彼らの家も広く、大きく豪華で、モノがたくさん入るスペースがあることはあるのですが、酔ってしまうくらいモノが溢れているのです。クリスマス・プレゼントといったところで、ほとんど必要のないモノばかりだと思うですが…。
そして我が家というか、高原台地の森の中の小屋に帰ってくると、ホッとします。彼らのスタンダードからすれば、この小屋はとてつもなく貧相に見えることでしょう。彼らはきっと、何という貧乏な暮らしをしているんだと思うことでしょう。でも私たちの家から見れば、彼らの家、父のいる老人用コンドミニアムにしても、まるで超豪華なハリウッド的な老人ホームなのです。
明治維新前後に日本を訪れた欧米人は、ヨーロッパ的基準でいくと上層階級であるはずのサムライ・クラスの貧しい様相に呆れ、かつ感嘆しています。貧しさを全く恥としていないからです。立派な刀を腰に差してはいるけど、着古したボロな着物で闊歩し、内職で爪楊枝を削り、傘の張り替えをし、どうにか食いつないでいるのに、実に堂々とているのに深い印象を受けています。貧しさを恥じていないことに驚いています。
ウチのダンナさんがサムライの子孫かどうか知りませんが、貧しさを恥としないところだけは引き継いでいるようなのです。さすがに、爪楊枝を削ったり、傘の張り替えこそしていませんが…、今のところは!
私の友人、兄弟、従兄弟たちが泊まりに来れば、キャンプ用のエアーマットレスを膨らまして居間に広げ、そこに寝てもらうし、収容人員が多い時には、庭にテントを張り、収容します。ご馳走とまではいきませんが、いつもと変わらない食事を提供します。それがまた、ミニマリスト(最小限主義)の生活体験だと結構人気があるのです。本人は、「オレ、何も好き好んでミニマリストを演じているわけじゃないけどな~、ただ身に染み付いた貧乏性が抜けないだけだけどな~」とか言っています。そして、自分がとりわけ貧しいと思っていないようですし、今の生活をより豊かに(アメリカ的にですが)しようとはツユほどにも思っていないようなのです。
アメリカで貧困層が拡大しています。
一応の基準ですが、一人暮らしでは年収が14,580ドル(1ドル140円として約204万円程)で、二人で19,720ドル、四人暮らしで30,000ドル(420万円程)となっています。これを見ると、アレッ?私たちの年金収入と変わらないではないか、と言うことは、私たちはアメリカの貧困層に属するようなのです。
でも、この収入ではニューヨーク、ロスアンジェルス、シカゴ、シアトルなど生活費がとても高い大都会で暮らすのは大変だと想像できます。私たちは年収も少ないけど、ライフスタイルというのでしょうか、経費が少なく、至って安上がりな暮らしをしているのです。高原台地の森の土地と家はもう何年も前に購入しているし、固定資産税は老齢デスカウントがあり(ウチのダンナさんは超後期高齢者ですので)、年280ドルで、維持費は電気代だけです。それを払えばここを維持できるのです。ほかは食料購入に使うだけですから、エンゲル係数がほぼ100の生活を送ることができます。でも、育ち盛りの子供を持っていて、しかも都会では私たちのような暮らしは不可能でしょうね。
この基準以下の収入しかない貧困層は、アメリカで3,790万人いると推定されています(2022年の国勢調査による)。全人口の11%に当たります。その内、約半数の48%、1,810万人は貧困基準の半分以下の収入しかなく、赤貧クラス(deep poverty)に分類されています。
アメリカには社会保障があってなきようなものですが、貧困層の人たちは、フードスタンプといって食品だけ買うことができる政府発行のクーポン券の支給を受けることができます。扶養家族の人数によって額はマチマチですが、いずれにしても申請しなければなりません。
政府の社会保障が行き届いていない分、アメリカでは慈善事業が盛んです。主に教会が主体になって行っているフードバンク(食料品を箱詰めにして、配給している)やホームレスシエルターが大掛かりに、良く機能しているようです。
貧困の基準は、その人がどこで、アメリカ国内だけでなく、世界のどの地域で生活しているかによって、大きく違ってくるでしょう。簡単にいえば、寝るところがあり、日常の活動に必要なカロリー、食べ物があり、その地域、季節に応じた衣服があれば、貧困とは呼べない理屈なのですが…。
早く言えば、衣食住が満たされているなら、貧困ではないとみなされる国、地域がたくさんあります。アメリカの貧困レベルの年収をアフリカ、アジアの発展途上国々の人から見れば、夢のような大金持ちになります。
第837回:貧困とは その2
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