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第35回:バッファローを絶滅に追いやったこと

更新日2023/09/21

 

アメリカの中西部が異常な速度で開発されて行ったのは、1862年に制定されたホームステッド法令(Homestead Act)とゴールドラッシュによるところが大きい。

ホームステッド法令は開拓民を西部に送り、定着させるために設けられた法案で、160エーカー(約65ヘクタール)を政府から無償で譲り受けることができるという、開拓民にとっては誠に美味しい話だった。しかもホームステッド局が監査に訪れるまでの数年間は無税だった。しかも、一件160エーカー貰えるのを、爺さん、婆さん、子供たち、孫まで、終いには死んだ家族の名前まで使って広大な地所を貰い受けていた。私たちが住んでいるこの高原台地も、大地主は2,000~5,000エーカーばかりで、大牧場の地主は、ホームステッドでその地所を政府からタダで貰った者たちの子孫だ。

無限にも思える土地は、元はと言えば、インディアンたちの広大な狩猟場だった。それを全く無謀な条約を盾に暴力的に取り上げ、インディアンたちを強制移動させ、白人入植者に分け与えたのだ。
 
私が子供の頃から、馴染み、親しんだ勇猛な西部劇、ハリウッド映画は、もちろん白人入植者、開拓民の側から観たストーリーだったのだ。西部開拓史そのものはインディアン迫害史と言い切っても良いくらいだ。

白人と契約を結び、白人の言うままにサインをした酋長、メディスンマンたちは散らばった部族全体を代表しているのではなかった。近代国家間の条約とは全く異質の約束事だったのだ。しかも、白人側はそんな約束、契約を何度も破り、インディアンを不毛の土地に追いやり、押し込めていった。

ヨーロッパやアメリカ東部からの入植者たちは、御上のお墨付きで、タダで土地を所有できるのだから、勇躍西へ西へと向かい、割り当てられた土地が元々インディアンのモノ(インディアンには土地の所有観念がなく、狩猟場としての共有地域程度の認識しかなかった)であったかどうかなど、想像したくもなかったことだろう。俺たちゃ、政府公認でこの土地を開拓していくのだと信じて疑わなかったのだろう。

白人の暴虐は、ホームステッドで農民が入植する以前に始まっていた。バッファロー猟である。

No.35-01
インディアンによるバッファロー・ハンティング
<アルフレッド・ジェイコブ・ミラー画;19世紀後半>

北アメリカ大陸の中央に広がる広大なグレートプレーンは野生に溢れていた。バッファローの大群が移動するとき、文字通り見渡す限りバッファローで埋め尽くされていたという。シャイアン族、キオア族、平原コマンチ族、アラパホ族、カンサス族などの狩猟インディアンたちは、弓と槍でバッファローを獲り、その肉を食べ、燻製にし、保存食にし、毛皮で冬場をしのぐ衣服を縫っていた。強い弓にバッファローの骨を薄く削り貼り合わせ、筋を弓の張りにしていた。舐めした皮はインディアンたちのテントに欠かせないものだった。一頭のバッファローを無駄なく使っていた。大きな角さえ、火持ちの良い燃料になった。
 
元々、狩猟民族が生きていくのに広大な狩猟場、土地、地域が必要だった。農耕民族が必要な土地の広さとはとても比較にならない広さから食料を得ていた。そして、狩猟民族は遊牧民のように部落全体が季節ごとに移動していた。

インディアンの狩猟部族の生活を大きく変えたのは馬だった。馬によって行動範囲が何倍も飛躍的に広がり、倒したバッファローを部落に持ち帰ることができるようになった。それでも、馬に乗り、弓矢で狩猟している時代は、バッファローの存在は部族の食料としてインディアンたちの存続を許すバランスをどうにか保っていたと思われる。
 
一挙に狩猟インディアンの生活を変えたのは、白人たちが持ち込んだ連発式のライフルだった。 
猟銃でも先込め式のマズル(muzzle)の時代、1840年頃までは、白人ハンターたちは先込め式のマズル銃を使っていたから(一発撃った後、火薬、弾を銃の先から詰め込む方式)狩猟できる数は知れたものだった。例え3、4丁の銃を携帯していたにせよ、撃ち殺せるバッファローの数は限られていたからだ。そこへ、白人のハンターが高性能のライフルを持ち込み、毛皮のためだけにバッファローを撃ち殺し始めたのだ。 
 
連発式のライフルになってから、一人のハンターがライフルを撃ちまくり、1日に200~300頭のバッファローを獲るようになり、バッファローの生態系が崩れた。

射殺したバッファローの皮を剥ぐ仕事をしていたジョン・クックという男が、1日に持ち込まれたバッファローの数を書き残している。それによれば、ライト・モーア:96頭、カーク・ジョーダン:100頭、チャールス・ラス:107頭、ヴィック:スミス:107頭、ドック・ザール:120頭、トム・ニクソン:204頭、オーランド・ボンドはなんと250頭で、1日に1,000頭近く処理しているのだ。 
 
ハンターたちはライフルを何丁も携帯していた。というのは、連続して数十発も撃つと、銃身に熱が籠り、加熱して扱えなくなるからだ。銃身を冷すため、何丁ものライフル銃が必要だったというのだ。とりわけ南北戦争終了後、大量に出回ったライフル銃で、レミントン社がバッファロー用に改良し、50~70口径と大きくしたものが人気だった。

正確さが売りだったシャープ社は、銃身を50インチ(1.22M)もの長さにし、かつ120グレイン(元々は麦一粒の重さで、今では火薬を量る単位になっている。1グレイン=0.0648グラム)の火薬を詰め込んだカートリッジ、銃弾を使用する、まさにバッファロー狩りのためのライフルを売り出している。銃火器の会社は、戦争が終われば、バッファロー狩り、その次にはインディアン狩りがあるさとばかり、次々と高性能の新商品開発に余念がなかった。
 
ジョン・クックはもちろん数多くの“皮剥ぎ職人”を使っていたのだろうけど、それにしても大変な数だ。皮を舐めすのは東部の工場で行うから、生の毛皮を列車に積み込み、東部へ送っていた。

-…つづく

 

 

第36回:バッファローの絶滅と金鉱発見

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佐野 草介
(さの そうすけ)
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海から陸(おか)にあがり、コロラドロッキーも山間の田舎町に移り棲み、中西部をキャンプしながら山に登り、歩き回る生活をしています。

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