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■亜米利加よもやま通信 ~コロラドロッキーの山裾の町から

第744回:死因の統計とサメ事故

更新日2022/03/03


新型コロナのパンディミックで亡くなった人は、アメリカだけでも90万人以上になります。ですが、もう慣れっこになってしまい、身近な人が死なない限り、単に数字の上のことだと思ってしまいます。

場当たり的な“受け”を狙ったジャーナリズム、ニュースでは余程の有名人、映画スターか歌手がコロナで死んだ時だけ、大々的に報道しますが、そうでなければ統計上の数字になってしまいます。

サメに齧られた事件は、2021年にはその前年に比べ40%も増えています。と言ったところで、72件で、死んだ人は9人と新型コロナとは比較にもなにもならない極小なのですが、私たちに与えるイメージ、サメが大きな口を開け、無数にも見える鋭いカミソリのような歯でガブリとやられる情景が脳裏にあり、さぞかし痛いだろうな~、そして海中に引き込まれ、食べられるのは堪忍してほしいと、誰しも思うのでしょう、そんな心理をついた報道が手や足をもぎ取られたグラフィックな映像でテレビ、雑誌に載ります。新型コロナで亡くなった人とサメに食べられた人とでは、報道の価値、受けが絶大に違うらしいのです。

サメの事故の大半は、フロリダとカリフォルニアで起こっています。それは当たり前、当然過ぎることで、そこに海水浴、サーフィンをする人たちが集中しているからです。

私たちが水上生活者だった頃、動物性タンパク質はダイダイ的に魚、貝類に頼っていました。食べ物が懸かると懸命になり、上達するのでしょう、ダンナさんは水中銃の腕を相当上げ、今晩のオカズはどんな魚がいい? それともロブスターかコンク貝にするかと、注文を取って潜るようになったくらいです。そこへ時折、食料漁りの競争相手、サメが現れ、「オオ、ヤバイ! サメとご対面したぞ」とか言いながら、ディンギー(足舟)に這い上がってきたことが再三ありました。仕舞には、彼が仕留めた魚をステンレスのスピアー(槍)ごとサメに持っていかれたりして、水中下の食料調達には厳しいものがあるようでした。

アメリカの沿岸で人間を襲うサメは、まず、体の丸い“ブルシャーク”の仲間でしょう。その中で、“ブラックティップ”と呼ばれている、背びれに黒いマークがあるサメが、膝までの深さしかない波打ち際まで来て、美味しそうな足を狙います。

サメの事故が増えているのは確かなことですが、それは海辺で遊ぶ人間の数に比例しているだけのことでしょう。他の要因は、サメの餌食になっている海中生物が激減しているからでしょう。

おまけに、サメ漁がレジャーに組み込まれ、もうめったに釣れなくなったカジキマグロに変わって、サメ釣りが非常にエキサイティングなスポーツとして伸してきましたから、サメの方もウカウカしていられなくなってきたのです。

フロリダでレジャー・トローリングの一大基地のようになっているフォート・ローダデルやキイウエストで、巨大な血だらけのサメを吊るし、サメ釣りの客を集めているのを眼にしたことがあります。

アメリカ人は、悪いことは何でも他の人のせいにする傾向があります。サメでさえなかなか釣れず、サメが減少しているのは、中国がフカヒレスープ用に乱獲しているからだと非難しています。フカヒレスープがサメ減少の原因の一つではあるでしょうけど、サメの餌になる魚、動物が激減していて、サメにしてみれば、この広い海でお腹をすかし、沿岸に近寄れば、サメ釣りに引っ掛かるし、うまいこと人間の味をせしめると、その界隈の観光事業関係者などが、徹底的にサメ退治に乗り出してくるし、相当つらい立場なのです。

すべてのマリーン生物同様、サメも恐ろしい勢いで絶滅に追い込まれています。大洋を泳ぎ回っている中くらいのサイズ、2.5メートルから5メートルほど大きさの“ダスティー・シャーク”、“ホワイトティップ・シャーク”は1970年から75%も減少しています。とりわけ、“ホワイトティップ”は絶滅の危機に瀕しています。

サメとエイは2000年に2億7,300万頭殺されています。とりわけ、エイの減少は酷く、この15年で“リーフ・マンタ・エイ”は96%も減っているのです。食物連鎖のトップに君臨している怖いものなし、何でもかんでも食いちぎる、よく安手の記録映画で悪役の主人公になる“ホワイト・シャーク”ですら、この42年間に37%も減少しています。

不思議なのは、このようにサメ、エイ全般で70%も減少している中で、“シュモクサメ”(ハンマーヘッド;あの顔が幅広く、平たく、目玉がその両端に付いているサメです)だけが30%も増えていることです。

人類の長い歴史の中で常に悪役を務めてきたサメ、お役目ご苦労さんでしたと絶滅してしまうと、必ず海の生態系に異変をきたすことになるのでしょうね。微妙なバランスの上に成り立っている自然の大系を崩さずに、たとえ悪役のサメとでも共存するのが、人類の知恵というものでしょう。コロナウイルスも地球からなくならないでしょうから、何とか制御し、うまく付き合っていくほかないのと同じです。

どうにもコロナウイルスとサメ、かけ離れ過ぎているのは承知の上で書いてしまいました。

-…つづく 

 

 

第745回:外来種のスネークハンター

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Grace Joy
(グレース・ジョイ)
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中西部の田舎で生まれ育ったせいでょうか、今でも波打つ小麦畑や地平線まで広がる牧草畑を見ると鳥肌が立つほど感動します。

現在、コロラド州の田舎町の大学で言語学を教えています。専門の言語学の課程で敬語、擬音語を通じて日本語の面白さを知りました。

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