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■亜米利加よもやま通信 ~コロラドロッキーの山裾の町から
 

第840回:交通事故統計の怪

更新日2024/02/29


アメリカの道路は危険がいっぱいです。
2021年の統計では、警察に届けられた交通事故件数は600万件以上(6,102,936件)。死者はこの16年間で最高の4万2,915人を記録しました。交通事故の死者の数だけで言えば、2万9,000人でガザ侵攻によるパレスティナ市民死者数を遥かに上回っているのです。

悲惨なのは、歩行者の死亡事故が7,388件にも上っています。その大半がお年寄りなのです。どうにも、アメリカで車を運転しないで、ただ道路を歩くのは死を覚悟してかからないとできないことのような印象を与えています。
 
日本での交通事故発生件数は30万5,192件で、同年の死亡者数は2,636人とあります。これはあくまで交通事故の総数で、人口10万人当たり、どのくらいの事故発生件数になるかを調べてみると、アメリカでは15件少々、日本、イギリス、フランス、ドイツ、オーストラリアなど、俗に言う先進国では5件以下なのです。
 
でも、なんと言ってもアメリカは車社会で、ニューヨークやシカゴなどの公共の乗り物バス、地下鉄がある大都会以外では、車のない家庭はまず考えられませんから、車10万台につきどれくらいの事故が起こっているのか調べたところ、アメリカでの事故死者数は33人と可愛いもので、アフリカのほとんどの国では、国名を挙げるとアンゴラでは992人、ガンビアでは998人と、大変高い事故発生率、死亡率なのです。ちなみに、日本では10万台の車に対し3.3人が事故死しています。
 
バンコックに行ったことのある人なら身をもって体験しているでしょうけど、あそこでの運転は曲芸に近く、少しでも隙間があれば、そこへ鼻先を突っ込むのをヨシと心得ているようです。車と車の幅、間にバイク、原付が二人乗りで割り込んできます。運転の仕方にお国柄があることを認めても、あそこではいかなるスポーツカー、高級車を自由に使えと言われても、運転したくない、できない街です。タイの10万台当たりの死亡事故件数は32.7件、事故死者数は60名と、1件の事故で2人近い死者を出していることになります。
 
私たちも長年、打ち明けていえば50年以上、運転しなかった日がないくらい、車を使っています。その間、人身事故、私やダンナさんを含め、怪我こそしませんでしたが、全損2回、鹿と衝突して半損事故に1回遭っています。現在、車を3台持っていて、ピックアップ・トラックは私たちの地所内で、枯れ、切り倒した木を運ぶため、1台はもう50万キロ走っているSUVで、今のところすべて快調に作動していますが、なんせ老朽車なのでいつエンストを起こすか分かりませんから、比較的新しい中古車をバックアップとして買いました。なんせ山暮らしなので、車がないと足をスッポリもぎ取られたようなもので、全く動きが取れないのです。

私たちは否応なしに車に頼らなければなりません。今は引退し、通勤のために運転しなくて済むようになりましたが、現役時代は毎日往復で90キロは走っていました。加えて、1,600キロ離れた年老いた父の元へ年に3回は往復し、アメリカ北西部に住む妹、弟のところまで2,300キロ往復します。そして、夏の2ヵ月間のキャンプ旅行、冬のスキーと車を本当によく使います。何も私たちが極端なわけではなく、むしろ、年間の走行距離から言えば、少ない方だと思います。カリフォルニアに住む人々は通勤は車で2時間は当たり前と言いますから、年間大変な距離を走っていることになるでしょう。

翻って、日本では車は週末家族で遊びに出かける時だけ使い、通常ガレージに鎮座しているという状態が多いのではないでしょうか。公共の乗り物が発達しているのでそれで十分、車に頼らなくても生活できる社会なのです。私たちが日本で車があれば便利だな、と思う時がないわけではありませんが、車を運転しなくても済むことにホッとします。
 
アメリカが車から脱皮する可能性はまずないと言い切れます。もう何十年も前からシカゴ、ニューヨーク、ワシントンを結ぶ高速鉄道を敷設する計画が何度となく立てられていますが、中心になる鉄道の駅から、目的地までの公共交通機関がないし、地元の駅までどうやって行ったらいいのか出発地点での公共交通機関の整備から始めなければなりません。膨大な車を収容できる駐車場がなければ何事もなし得ないのです。
 
今、スキーを楽しんでいる中小クラスのスキー場でも、広大な駐車場が三つあり、6キロ離れた第3駐車場からバスをピストン運転させ、それも満員になり、できるだけ誘い合わせ、相乗りしてくるように呼び掛けています。教会も広大な駐車場がなければ信者さんが集まりませんし、ちょっとしたレストランも駐車場の大きさでレストランの規模が決まってしまいます。
 
そんな極限に近い車社会のアメリカは、一種異常な状況にあるのでしょう。

交通事故の統計でも、1台の車の走行距離を基準にしなければ、ただ、車の所有台数では比較になりません。しかし、1台の車の走行距離が年に何マイルであるかを知るのは不可能なくらい難しく、それを基準にしなければ交通事故の比較など意味がないのですが、そんな手間隙の掛かる調査は見たことがありません。

 

 

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Grace Joy
(グレース・ジョイ)
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中西部の田舎で生まれ育ったせいでょうか、今でも波打つ小麦畑や地平線まで広がる牧草畑を見ると鳥肌が立つほど感動します。

現在、コロラド州の田舎町の大学で言語学を教えています。専門の言語学の課程で敬語、擬音語を通じて日本語の面白さを知りました。

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