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■亜米利加よもやま通信 ~コロラドロッキーの山裾の町から
 

第843回:自殺は由々しき社会問題なのか?

更新日2024/03/21


アメリカの観光名所は、なんと言っても国立公園、大自然が売りですが、人造の構築物も負けてはいません。エッフェル塔ほどではないにしろ、サンフランシスコ湾に掛かるゴールデン・ゲイトブリッジは美しくもあり、壮大で一見の価値があります。この橋は全長2キロ近くあり、吊り橋の二つの橋桁の間が1,280メートルもありますし、実際に歩いて渡ると、中央部分まで散歩することができ、実に壮観ですが、風が強いので吹き飛ばされそうになります。

私が歩いて中央部まで行った時、外側に簡単な金網が張ってあり、軽い人が吹き飛ばされないための防御柵かな~と思っていたところ、自殺防止用だと後で知りました。橋から飛び降り自殺をする人が結構多いのです。防御柵といっても2メートルくらいの高さですから、誰でも簡単に乗り越えることができるでしょう。
 
ところが、最近の写真を見ると、橋の両側に鉄パイプを突き出て、それに網が張ってあるのです。何だかせっかくのゴールデン・ゲイトブリッジも大写しすると奇妙なネットが張り巡らされ、すっきりとした景観ではなくなってしまったのです。なんでも、自殺する願望者が金網の柵を乗り越え、イザとばかり海に飛び込むと2、3メートル下に張り出したネットに引っ掛かり、もがいているうちに監視カメラを観ている警備員に救助されるという仕組みです。

一度自殺に失敗すると、大半の人は同じ方法で自殺を試みないのだそうです。それに遺体捜索のため沿岸警備隊、サンフランシスコ市の海上パトロール隊を出動させるより、受け皿のような金網やネットを張り巡らす方が遥かに安上がりなのだそうです。
 

日本にも自殺の名所?なるところがたくさんあり、お役所ではその対策に苦慮しているようです。一時、『華厳の滝』で藤村操が投身自殺し、その際、脇にあったミズナラの大木に“嚴頭之感”という漢文調の遺言を彫り残し、当時センセーショナルな事件になり、ソレッ、藤村操に続けとばかり、投身自殺する若者が増えたといいます。

地元の警察は初め、ミズナラに彫られた遺書に腹巻のようにサラシを巻き、それも効果がないとなると、遺書の部分をスッポリ削り取り、終いにはミズナラ自体を切り倒しています。それでも華厳の滝、自殺ブームが治まるまで、185人もが身を投げたそうです。これはダンナさんからの入れ知恵、情報ですが…。

2022年の統計ですが、アメリカで年間4万9,449人が自らの命を絶っています。世界保健機構(WHO)では、“その多くが防ぐことができる社会問題である”ともっともらしいことを言っていますが、それじゃ、そんな社会問題とは何なのか、それをどうすればよいのか教えてくれません。アメリカの特徴と言っていいと思うのですが、45歳以上が多く、65歳以上になるとさらに多く、そして悲しいことですが85歳以上になると1万人当たり28.1人ととても高くなることです。

長年自殺大国の名をほしいままにして来た日本では、2022年に2万1,881人が自らの命を絶っています。1万人当たり17.5人で、いまだに世界のトップです。アメリカも1万人あたり14人と2番目争いをフランスと演じています。そして、ドイツ、カナダ、イギリスと続きます。

日本の自殺の特徴と言って良いのかしら、男性が女性の3倍近いことと、小中高の生徒が514人もいることでしょう。私の印象ですが、日本の男性はストレスが多く、疲れ切っているのに比べ、主婦、女性の方はエネルギーに溢れ、趣味に駆け回っているように見受けられます。

身近なところで、私の従兄弟が二人自殺していますし、私たちの親友の父親も、自分の身の回りの世話をキチンとし、葬儀屋さんの手配までして、その葬儀屋のチャペルでコメカミにピストルを撃ち込んで死にました。一見、潔い死に方のように見えますが、残された奥さん(親友の母親です)とか子供たち(私の友人)にとても大きな心的障害を与えました。
 
この事件のように、アメリカでの自殺の手段は銃火器、ピストル、散弾銃、ライフルなどを使うが53%にのぼり、それも年齢とともに増加し、65歳以上の自殺の78%が銃火器を使っています。身の回りにピストルや鉄砲があるし、歳を取ると薬物や首吊りなどで苦しみたくない、簡単にズドンと1発で死ぬ方が簡単だ、という結論に至るのだそうです。

ですから、アメリカで自殺を抑えるなら、銃火器を全面的に禁止すれば良いということになります。これは自殺だけでなく、銃火器による膨大な殺戮を抑えることもできるのですが、アメリカで銃火器が全面禁止になることはまずないでしょうね。
 
自分の命に自分で始末をつけるのは潔く思えますが、遺された人へのトラウマを配慮しない、非常に自己中心的な行為だと信じています。ハラキリの国から来たダンナさん、ある種の自殺者を清廉な最後と考えているフシがあるのですが、もしダンナさんがそんなことをしたら、私は絶対に許さない…と言明しています。

 

 

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Grace Joy
(グレース・ジョイ)
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中西部の田舎で生まれ育ったせいでょうか、今でも波打つ小麦畑や地平線まで広がる牧草畑を見ると鳥肌が立つほど感動します。

現在、コロラド州の田舎町の大学で言語学を教えています。専門の言語学の課程で敬語、擬音語を通じて日本語の面白さを知りました。

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