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■店主の分け前~バーマンの心にうつりゆくよしなしごと
 

第492回:流行り歌に寄せて No.287「バス・ストップ」~昭和47年(1972年)9月1日リリース

更新日2024/12/12


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私は、先月(2024年11月)の30日に、25年間続けてきたバーを閉店いたしました。
そのため、このコラムの『店主の分け前~バーマンのこころにうつりゆくよしなしごと』というタイトルが、ふさわしくなくなったと感じ、変更を考えました。しかし、編集長の越谷隆さんから「タイトルをそのままにして、バーマンは廃業してもバーマンの気持ちで連載を続けるのもありではないか…」というご指摘を受け、店のお客さんに相談しても同意見の方があったので、従来通りのタイトルを続けて行こうと思います。

よろしければ、どうぞ引き続きお付き合いくださいますよう、お願い申し上げます。 <金井 和宏>

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先日、私が卒業した、愛知県春日井市の中学校の同窓会案内の往復はがきが届いた。

来年の3月に地元の会場で行なうというものだが、案内文の最後に「今回、古希を迎えるにあたり、同窓会は一旦区切りとしたいと思いますので、多くのご参加をお待ちしております」と書かれていた。みなで会って懐かしむ、その同窓会にも最終回があるのだなと、少ししみじみとした。

私は、父の転勤などの関係で、小学校は三校、中学校は二校行っているので、小・中学校を通しての同級生という人がいない。なぜか頼りない気がしていて、子どもにはその思いをさせたくないと、小・中学校は、ずっと同じところに通わせた。

今回ご紹介する平浩二と、同じ歌手である前川清とは、小・中学校の同級生であるという。長崎県佐世保市立山手小学校から、同市立花園中学校へと進んだ。

二人は、当時から顔見知りだったのだろうか。平は吹奏楽部、前川は野球部と、中学時代のクラブ活動は違っていたが、その後二人は歌手という、同じ道を歩くことになった。

デビューは同じ年、昭和44年(1969年)で、前川清は内山田洋とクール・ファイブのメイン・ヴォーカルとして『長崎は今日も雨だった』で2月にレコード・デビュー。一方の平浩二は『なぜ泣かす』で11月に同じくレコード・デビューしている。

デビュー曲から、いきなりオリコンの週間ヒット・チャート2位と、大いに売れた前川に対し、平はなかなか売れなかった。同級生としては、悔しい思いであったと推測するがどうだろうか。

平が世に知られるようになったのは、昭和45年の10月に、西田佐知子の歌唱で有名な『女の意地』をレコーディングし、大きなセールスを上げたことからだった。

元々この曲は、西田が昭和40年10月に出した『赤坂の夜は更けて』のB面だった。西田自身のお気に入りの曲で、その後テレビドラマの主題歌になったこともあり、彼女も昭和45年12月に新たにレコーディングし直している。

また、面白いことに、この曲を内山田洋とクール・ファイブも昭和46年2月にレコーディングしており、三人(組?)の競作となった。

内山田洋とクール・ファイブは、デビュー以降『逢わずに愛して』『愛の旅路を』『噂の女』と次々とヒットを飛ばし、前川清はスターになっていく。『女の意地』の後はヒット曲に恵まれなかった平だったが、初めて組んだ千家和也、葵まさひこの二人が素晴らしい曲を提供してくれた。

 

「バス・ストップ」 千家和也:作詞  葵まさひこ:作・編曲  平浩二:歌


バスを待つ間に 泪を拭くわ

知ってる誰かに 見られたら

あなたが傷つく

何を取り上げても 私が悪い

過ちつぐなう その前に

別れが 来たのね

 

どうぞ口を開かないで

甘い言葉 聞かせないで

独りで帰る道が とても辛いわ

 

バスを待つ間に 気持を変える

つないだ この手の温もりを

忘れるためにも

 

…どうぞ顔をのぞかないで

後の事を 気にしないで

独りで開ける 部屋の鍵は重たい

 

バスを待つ間に 気持を変える

うるんだ その眼の美しさ

忘れるためにも

 

平浩二の歌手としての生みの親である、日本音楽出版のプロデューサー、村上司は、平の歌の魅力はファルセットであると考え、これを生かした曲を作りたいと思っていた。そこで思い浮かんだのが、プラターズの『オンリー・ユー』の歌い出しだったという。

そして、二人の作家により、あの「バスを~~」の名フレーズが生まれた。スタッフは、この曲の肝はこの部分であると強く訴え、平に何回も何回も録り直しをさせた。平は、半世紀以上経った今でも、この曲を歌い出す時は緊張すると話しているそうだ。

『バス・ストップ』は、昭和47年から翌48年にかけての有線放送リクエストで1位となる。紅白歌合戦にも、レコード大賞、歌謡大賞にも、今のところ縁のない平だが、有線のリクエストの数が一番多かったということは、大きな勲章であると思う。

ところで、この曲の舞台は、当時の渋谷駅東口のバスターミナルだという。曲のヒットからしばらくしてから、私もそこからよくバスを利用したが、あの場所に、そんな雰囲気があったのだろうか。

確かに、歌詞の内容を見ると、長距離バスではなく、もっと日常的な、生活感のあるバスの停留所であることを想像することはできるのだが…。

 

 

第493回:流行り歌に寄せて No.288「おまえに」~昭和47年(1972年)10月1日リリース


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金井 和宏
(かない・かずひろ)
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1956年、長野県生まれ。74年愛知県の高校卒業後、上京。
99年4月のスコットランド旅行がきっかけとなり、同 年11月から、自由が丘でスコッチ・モルト・ウイスキーが中心の店「BAR Lismore
」を営んでいる。
Lis. master's voice
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2024年11月30日、「BAR Lismore」閉店しました。


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