第49回:ウンデッドニー占拠事件 その2
合衆国政府は終焉の見えないウンデッドニーのロックアウトに業を煮やしたのだろう、DOJ(司法省人権委員会)のハーリントン・ウッドを更迭し、より多くの権限をケント・フライゼル(Kent Frizell)局長に与え、送り込んだ。ケント・フライゼルは対インディアン強硬派で、彼が完全に電気、水道、外界とのコミュニケーション、食料の補給路を絶った。マスコミがインディアン側に立ち、オグララ・スー族に同情的なのを報道管制を強化することで規制しようとしたのだ。
だが、ケントの取った完全封鎖はある意味で逆効果だった。ウンデッドニーに張り付いている報道陣は、テレビ局、新聞社を含め相当数になっていたから、封鎖を掻い潜ってウンデッドニーに入り込むジャーナリストが何人も現れ、ウンデッドニー内での食料不足(実際に彼らは一日一食の配給制を敷いていた)、医療品の欠如、それに反して士気の高さなどを全米に記事を流した。政府が非人道的な処置を取っているイメージが大々的報道されたのだ。
完全封鎖はインディアンを窮状に陥れたことは確かだが、それにも増してアメリカの先住民、インディアンの市民権運動は高まり、支援物資、支援金がドンドン集まり始める逆効果を生んだのだ。
それに呼応して、自家用機を持つ支援者が小型飛行機で空から食料などを投下し始めたのだ。政府側もまさか民間機を撃ち落とすわけにもいかず、見逃すしかなかった。外部からの航空支援をオーガナイズする者まで現れ、自家用機をどこから、何を積んで飛ばすかというネットワークができるほどになった。だが、小型の自家用機での医療品、食料などの投下には限度がある。
ウンデッドニーの中で、もう80年以上行われたことのないゴーストダンスが行われた。これは多分にAIMの精神的主柱であるレオナルド・クロー・ドックが提唱し、始めたもので、ウンデッドニーで殺されたビック・フットの霊を呼び戻すモノだった。ということは、オグララ・スー族、それに他から支援にきたインディアン部族らはこのウンデッドニーの封鎖に希望を持てなくなってきたのだろう。ゴーストダンスは絶望したインディアンたちが来世に希望を託すたぐいの祈願だから、彼らはすでにAIMのレッド・パワー運動に行き詰まりを感じていたのだろうか。
政府の役人フライゼルは、より強引なインディアン対策を取った。政府軍が取り囲む陣地から報道陣までを完全追放し、マスコミを一切遮断しさえした。しかしこれも逆効果で、そうなると特ダネを狙うジャーナリスト、ルポライターに暗躍するチャンスを与えているようなものだった。
そんな騒ぎをよそにアメリカの世論は政府の方針を支持せず、一方的にウンデッドニーを占拠しているオグララ・スー族が同情を集めた。その頂点が3月27日に行われたアカデミー賞授賞式だった。その年『ゴッド・ファーザー』が圧倒的な人気を集め、主演のマーロン・ブランドが男優主演賞に輝いた。どこまでアカデミー賞委員会が事前に知っていたかどうか微妙なところだが、マーロン・ブランドは代理人としてインディアンの女性、サチェーン・リトルフェザー(Sacheen Littlefeather)を送ったのだ。
授賞式に代理人を送ることは前例もあり、認められていたが、事前にスピーチの内容までチェックしなかった。できなかった。4、5人の候補から選ばれ、指名され、あらかじめ用意した紙を見なくても、ほとんどの受賞者はありきたりの感謝と喜びを大袈裟に言う程度で、事前に内容までチェックのしようもない。
アカデミー授賞式にマーロン・ブランドの代理人として
オスカーを受け取ったサチェーン・リトルフェザー
このリトルフェザー女史は全国原住アメリカンのイメージを肯定的なものにする委員会(National Native American Affirmative Committee)の会長で、インディアン部族の衣装で現れ、ウンデッドニーのサポート、それに今のハリウッド、テレビではインディアン=イコール、残虐な悪者のイメージを作り上げている、よってマーロン・ブランドは受賞を拒否するとやったのだ。当然、式後のインタビューで彼女は朗々、延々とハリウッド・バッシングを展開し、ウンデッドニー・ロックアウトの支持を表明したのだ。
授賞式をテレビで観ていたアメリカ人は500~600万人と推定されるが、この授賞式のスキャンダルをすべてのニュースチャンネルが流し、アメリカの隅々まで広がったのだ。また、世界中にウンデッドニー占拠事件が知られることになった。マローン・ブランドが意図したように、マスコミが踊ったのだ。
これに前後するように、ジェーン・フォンダ、ジョニー・キャッシュ(カントリーウエスタンの歌手)、アンジェラ・デイヴィス(黒人市民権運動の闘志)などなど、ウンディドニー支援の声明を打ち出したのだった。中でも黒人議員幹部会(Congressional Black Caucus)が正式にウンデッドニーサイドに協賛したことは、市民権運動を進めている全米の黒人の支持を得ることに繋がった。
-…つづく
第50回:ウンデッドニー占拠事件 その3
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